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日本代表 5年前

日本代表・伊東純也が躍動した理由。久保建英、堂安律にはないCL経験、生まれた余裕と大胆さ

2022年カタールワールドカップのアジア2次予選が10日に行われ、日本代表がモンゴル代表に6-0の完勝を収めた。この試合で先発起用された伊東純也は、右サイドから幾度となくチャンスを生み出して3アシストをマーク。UEFAチャンピオンズリーグの舞台を経験する韋駄天が、この試合でも躍動した理由とは。(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子 photo by Getty Images

3アシストを記録した伊東純也

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モンゴル戦で3アシストを記録した伊東純也【写真:Getty Images】

 9月のパラグアイ・ミャンマー2連戦は同じスタメンで戦った森保一監督。だが、10日の2022年カタールワールドカップアジア2次予選第2節・モンゴル戦では、ようやくメンバーの入れ替えに踏み切った。

 大迫勇也不在の1トップに永井謙佑を入れたのは想定内だとして、意外に映ったのは、堂安律、南野拓実、中島翔哉の2列目トリオの解体だ。

 ミャンマー戦でゴールを挙げた中島と南野は残しつつ、右サイドに今季ヘンクでUEFAチャンピオンズリーグ(CL)デビューを果たしたスピードスター・伊東純也を抜擢。その伊東と南野の息の合った連係から前半22分の先制弾が生まれる。世界基準の推進力で右コーナー付近をえぐって右足で上げた伊東のクロスを南野が打点の高いヘッドで押し込み、日本は緊張から解き放たれたのだ。

 そこから伊東は長友佑都、永井のゴールをお膳立てし、全6得点中3アシストを記録。圧倒的な存在感を披露した。「ゴールも取りたいですけど、チームの得点になるのはいいこと。タテに抜いてクロスを上げた方が可能性が高いことが多いので、アシストが増えていくのかなと思います」と本人も言うように、より得点確率の高いプレーを確実に選択したことで圧巻パフォーマンスにつながった。

 その冷静さこそがCL経験の賜物なのだろう。ベテラン・長友が「CLでレベルの高い相手と本気でやってると自分に自信を持てるようになる。一番大きいのはメンタル的な部分。サバンナにいる動物とこのへんの山にいる動物では研ぎ澄まされ方が違う」と変貌の要因を代弁したが、今回の伊東は少し前とは比べ物にならないほどの余裕と大胆さが印象的だった。欲を言えば、ゴールもほしかっただろうが、ここまで固定されがちだった2列目の一角に風穴を開けた意味は非常に大きかった。

重い腰を上げた森保監督

 後半には、南野が下がって鎌田大地が入って一時的にトップ下でプレー。右に伊東、左に中島という新たな構成が見られたし、永井が退いて原口元気が入った後半25分以降は、中島が中央に陣取って右に伊東、左に原口という矢のようにタテへ行ける2人をワイドに置く形にもトライできた。

「つねにいろんなバリエーションを考えている」と言いながら、計算できる陣容から一歩踏み出すことに躊躇しがちだった森保監督がやっと重い腰を上げ、2列目の幅を広げるアプローチに打って出たことで、アタッカー陣の本格的サバイバルが幕を開けたと言っていい。

 今回出番のなかった堂安は悔しさを覚えただろうし、久保建英も自分の立ち位置がまだまだ低いことを痛感させられたはず。これを機に彼らが目の色を変えて取り組み始めれば、伊東ら他のメンバーも刺激を受け、チームが活性化されるだろう。

「自分も自分のよさを出さないと残っていけない」と森保ジャパン8点目を挙げ、チーム得点王に躍り出た南野からも危機感が口を突いて出たほど、メンバー入れ替え効果はてきめんに出た。もちろん今回はFIFAランキング183位で大きな実力差のあるモンゴルが相手だったため、個々のパフォーマンスを全面的に評価できない部分はある。それでも、チーム内の競争意識が格段に高まったことだけは確か。2次予選という今の時点ではそれが何よりも重要なのだ。

堂安や久保はまだ新天地に赴いたばかり

 森保監督は今後も2列目トリオを軸にバリエーションを広げていくつもりだろうが、所属クラブでの活躍度をより重視した選手起用を意識していくべきだ。今回、伊東が目覚ましい成長を遂げ、南野がコンスタントに得点を奪ったのも、やはりクラブでCLを戦い、目に見える結果を残していることが大きい。

「強い相手とやっても通用する部分があるという自信を持てたし、多少なりともプラスになっている」と伊東自身もコメントしていたが、日々の積み重ねは確実に代表戦での一挙手一投足に出るのだ。堂安や久保はまだ新天地に赴いたばかりで、ここから自分のパフォーマンスを引き上げる段階にいる。

 ただ、伊東や南野が体現するCL基準に達しなければレギュラーを死守できないことは分かったはず。仮に15日の次戦・タジキスタン戦で出場機会を与えられた場合には、そのレベルで自分自身も十分やれることを証明しなければならないだろう。

 それは中島や原口にしても同じ。中島はUEFAヨーロッパリーグ(EL)参戦中だが、まだ完全に定位置をつかんだとは言い切れない状況だ。原口も今季はドイツ2部でのプレーを余儀なくされている。もちろん試合にはコンスタントに出場し、本職のサイドアタッカーで継続的に試合に出てはいるが、ゴールに絡む結果がまだ残せていない。そういう部分でインパクトを残してこそ、代表レギュラーに近づく。彼らが目の色を変えて戦うことで、攻撃陣はさらに厚みを増すのだ。

「誰が出ても勝てるチームが本当に強いチーム」とモンゴル戦前に酒井宏樹も語っていたが、そういう状態に一歩近づいたことは一戦の大きな収穫だ。2列目トリオ解体によって見えたものは少なくなかった。さらに幅のある攻撃陣とゴールへの道筋を作るべく、指揮官には積極的なチャレンジを続けてもらいたい。

(取材・文:元川悦子)

【了】

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