コンサドーレ・福森晃斗、「とっさの判断」が生んだFK弾。「プレッシャーを感じなかった」レフティーが叶えた夢【この男、Jリーグにあり】

JリーグYBCルヴァンカップ決勝戦、北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレが26日に行われた。試合は120分を戦い3-3で決着がつかず、PK戦の末に川崎フロンターレに軍配が上がった。札幌のDF福森晃斗は、88分に逆転を許した札幌を後半アディショナルタイムに救い、延長前半に一時は勝ち越しとなるFK弾を決めた。26歳のレフティーにとって、古巣対戦となったこの一戦にかける思いに迫る。(取材・文:藤江直人)

2019年10月30日(Wed)10時50分配信

シリーズ:この男、Jリーグにあり
text by 藤江直人 photo Getty Images
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福森晃斗が持つ左足の脅威

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1得点1アシストをマークした北海道コンサドーレ札幌の福森晃斗【写真:Getty Images】

 ひとたびユニフォームを脱げば驚くほど寡黙で、シャイな素顔をのぞかせる。ピッチのなかでも決してオレが、オレがと目立とうとする性格の持ち主ではない。しかし、セットプレーを任されたときの福森晃斗は味方にとって天使のような、相手にとっては悪魔のような存在へとひょう変する。

 利き足の左足に込められた矜恃は、北海道コンサドーレ札幌で絶対的な存在となったいまも、川崎フロンターレでプレーした2011シーズンからの4年間も変わらない。迎えた2019年10月26日。YBCルヴァンカップ決勝が行われた埼玉スタジアムで、福森は3年前から抱き続けた夢を成就させた。

「プロのキャリアをスタートさせてもらった川崎フロンターレに対して、この大舞台で絶対に直接フリーキックを決めたいと思っていたので。素直に嬉しかったですね」

 神奈川県の強豪・桐光学園高からフロンターレに加入するも、在籍した4年間は公式戦の出場がわずか16試合にとどまった。もっとも、当時から左足から放たれるキックは、特に一目が置かれていた。リーグ戦で初先発を果たした2012年5月26日のベガルタ仙台戦では、こんなやり取りがあった。

 両チームともに無得点で迎えた12分。敵陣で獲得した直接フリーキックのチャンスに、不動のキッカーを担っていたMF中村憲剛から「蹴るか?」と耳打ちされた。自信や矜恃よりも緊張感が上回ったのか。当時19歳の福森はさすがに断りを入れたが、大きな期待を託されているとわかっていたからこそ、2015シーズンから期限付き移籍した、当時J2を戦っていたコンサドーレで成長を期した。

 年間42試合を戦うJ2リーグで、2シーズン続けて39試合に出場。先発を外れたのは1度だけで、2015シーズンのプレー時間3487分は全選手のなかで1位、J1昇格を決めた2016シーズンの3483分は同じく2位を数えた。濃密な経験を積み重ねるなかで、コンサドーレへの完全移籍を決断した。

古巣・川崎への思い

 このときにフロンターレを通じて発表されたコメントには、断腸の思いとともに袂を分かち合う古巣フロンターレへの、常に温かい言葉をかけてくれたファン・サポータへの感謝の思いが綴られていた。

「自分にはフロンターレがなければプロ生活を始めることが出来なかったので、今まで応援してくださった皆さん、支えてくれた皆さんには感謝しかありません」(原文のまま)

 実は2016シーズンのオフに、浦和レッズからもオファーを受けている。当時のミハイロ・ペトロヴィッチ監督がその左足に惚れ込んだものの、福森はコンサドーレを選んだ。2017年夏にレッズを解任されたペトロヴィッチ監督が、数奇な運命のもとで昨シーズンからコンサドーレを率いている。

 そして、クラブ史上で2度目となるJ1残留を決め、昨シーズンには歴代最高位となる4位に躍進したコンサドーレで、福森は3バックの左ストッパーとして必要不可欠な存在となる。今シーズンを含めて、リーグ戦で出場した92試合はすべて先発。この間、愛着深いフロンターレにだけは勝てなかった。

 5試合を戦ったリーグ戦では2分け3敗。コンサドーレが奪った4ゴールのなかに、福森が決めたものはない。昨年7月の対戦で福森の直接フリーキックをGKチョン・ソンリョンが弾き、こぼれ球をFW都倉賢(現セレッソ大阪)が押し込んだ一撃が、ゴールに絡んだ唯一の場面だった。

 だからこそ、ともに大会初優勝をかけて、特にコンサドーレにとってはクラブ創設以来の初タイトルをかけて臨んだ、フロンターレとのルヴァンカップ決勝には期する思いがあった。しかも、故障離脱中のMF宮澤裕樹に代わり、福森の左腕にはキャプテンマークが巻かれていた。

「基本的にはやることは変わらないし、ずっとゲームキャプテンだった荒野(拓馬)も先発していたので。別に自分が一人で頑張らなくてもいいというか、いつも通りやることだけを心がけていました」

劇的なFK弾を生んだ「とっさの判断」

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福森晃斗はこの日、ゲームキャプテンを務めた【写真:Getty Images】

 そして、福森が言及した「いつも通り」のプレーがコンサドーレを蘇らせ、フロンターレを敗色濃厚な状況にまで追い詰めた。1-2で迎えた後半アディショナルタイムの5分。両チームの誰もが「最後のプレーになる」と思っていた右コーナーキックで、福森の左足が輝きを放った。

 インスイングから放たれた鋭い弧を描いたボールはフロンターレのゴールに向かいながら、ニアサイドへ飛び込んできた荒野とFW鈴木武蔵を越えて急降下。2人の背後にMF大島僚太のマークを振りほどいて飛び込んできた、身長177cmのMF深井一希の頭に完璧なタイミングでヒットした。

「絶対に決めてくれ、という思いしかなかったですね。コーナーキックの練習のときから、入る選手と入るところは決まっていたので。あとはいかに自分がいいボールを蹴られるかどうかでした。自分のことを信じて、みんなが入ってきてくれた結果だと思っています」

 ファーサイドにDFキム・ミンテ、さらに外側にはMF菅大輝とDF進藤亮佑が飛び込んでくる状況で、身長168cmの大島にマークされていた深井を選択。正確無比なボールは深井の頭を介して、ゴール左隅へ吸い込まれた。フロンターレのGK新井章太が、一歩も動けない同点弾だった。

 コンサドーレを延長戦での仕切り直しに導いた26歳のレフティーは、99分にはひときわ眩い輝きを放ってみせた。ゴールまで約17mと、絶好の位置で獲得した直接フリーキック。最初に狙いを定めた、自身から見て右側には身長186cmのDF山村和也が壁のなかに入っていた。

 ひるがえって左側、ちょうど左ポストまでの延長線上には168cmの大島、164cmのMF長谷川竜也の2人しかいない。とっさの判断で標的を変え、自信を込めて伝家の宝刀を抜いた。

「それだったら、スピードが出たボールで壁の左側を越しちゃえばいけると思って。ウォーミングアップのときからキックの調子はよかったので、あとは自分を信じて蹴るだけでした」

福森晃斗の名は日本中へと知れ渡った

 フロンターレの同期生、大島の頭をかすめた低く、強烈な弾道が美しい弧も描きながらゴール左側のネットに突き刺さる。懸命にダイブした新井が伸ばした右手がまったく届かない、豪快かつ完璧な逆転ゴールが決まる直前には、約4分間におよぶ中断が生じていた。

 直接フリーキックは、コンサドーレのタイ代表MFチャナティップのドリブル突破を、ペナルティーエリアに侵入される直前でDF谷口彰悟が倒したことでコンサドーレに与えられていた。ファウルを犯した谷口にはイエローカードが提示されたが、なかなか試合が再開されない。

 実はこの間、ルヴァンカップの決勝トーナメントから先行導入されているVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定が行われていた。荒木友輔主審がピッチ脇に設置されたモニターで谷口のプレーを再検証した結果、決定的な得点機会を阻止したとしてレッドカードに変更された。

 スタジアム全体が騒然となっても、福森は狙い定めたコースから視線を反らさなかった。完全移籍した2017シーズンから追い求めてきた、古巣からゴールを奪うシーンだけを思い描いていたのか。密かに憧れ続けてきた母校・桐光学園高の大先輩、中村俊輔(現横浜FC)をほうふつとさせる一撃にようやく、ほんのちょっとだけ自分で自分を褒めている。

「チャナ(チャナティップの突進)がいいところで(ファウルを)もらってくれたし、蹴るまでにはちょっと時間がかかりましたけど、自分としては集中していました。プレッシャーも何も感じなかったので、上手く決められたと思います」

 しかし、身長183cm体重75kgの体もまた悲鳴をあげかけていた。後半途中の段階で足をつらせ、痛む箇所を必死に伸ばしながらプレーを続け、一時は逆転となるゴールを決めて4万8119人で埋まったスタンドへ、地上波が生中継されていた日本中へ「福森晃斗」という名前を存分に知らしめた。

悔しさよりも楽しさが勝ったファイナルの舞台

 今シーズンの公式戦で、福森が直接フリーキックを叩き込んだゴールは「4」を数えている。ザックジャパンの後期にさかのぼるまで、直接フリーキックからの鮮やかなゴールが決まっていない軌跡を振り返れば、福森の左足は日本代表でも稀有な存在感を放つレベルにあると言っていい。

 しかし、延長前半を戦い終えたところで限界に達した。後半開始とともにDF石川直樹と交代。ベンチで声をからしながらチームメイトを後押ししたが、109分にフロンターレのキャプテン、FW小林悠にこの試合2ゴール目を決められてしまう。その後は数的優位を生かせず、3-3のままもつれ込んだPK戦で決めれば優勝という状況から、まさかの逆転を喫して涙を飲んだ。

「120分間出られなかったところに、個人的にはふがいなさも感じました。チームとしては勝っているときの、残り15分間の戦い方ですね。相手も10人だったし、自分たちにはしっかりとボールを回す技術もあったので、攻め切ってゴールを奪ってさらに点差をつけるのか、キープするのかという点が、ピッチでプレーしている選手のなかでどっちつかずになってしまった感じがして」

 延長後半の15分間で3度獲得した、右コーナーキックを福森が蹴っていたら。PK戦に臨んだキッカーのなかに「5番」がいたら。さまざまな「たら・れば」が余韻を残すなかで、もう変えられない過去よりも、自分たちのパフォーマンス次第で変えられる未来を福森は見つめる。

「ポジティブにとらえると、川崎相手にしっかりと戦えるところは見せられたと思う。今日も全国放送されていたし、北海道コンサドーレ札幌が強いというところを示せたこともよかった。こういう大舞台を経験できたことで、チームとしても同じような戦いに挑むときに平常心を保てると思うし、勝てなかった分だけ来年また同じ舞台に立って、次こそはみんなでカップを掲げたいと思える。悔しさもありましたけど、個人的には楽しさの方が大きかった決勝戦でした」

 タイトル獲得は夢と散ったが、戦いはまだまだ続く。未来へつなげていくためにも、8位につけるリーグ戦で少しでも上位へ食い込む戦いが求められる。残りは5試合。運命の悪戯と言うべきか、12月7日に札幌ドームで行われる最終節では、今回の決勝戦を含めた公式戦で1勝6分け18敗と大きく負け越しているフロンターレと対峙する。モチベーションが駆りたてられないはずがない。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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