フロンターレ、田中碧。“ミドル反対派”だった男に芽生えた変化。21歳の心を動かしたものとは?【週刊Jリーグ通信】

明治安田生命J1リーグ第30節、川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島が2日に行われ、川崎フロンターレが2-1で勝利した。この試合で存在感を見せたのが、「もともとミドルシュートを打つタイプではなかった」と話すも、前半21分に目の覚めるようなスーパーミドルを決めたMF田中碧。10月14日(日本時間15日)に行われたU-22日本代表対U-22ブラジル代表戦でも豪快なミドルシュートを2本決めた男は、鼻骨骨折の影響でフェイスガードをしながらのプレーでも一歩も引かない心の強さも見せた。急速な進歩を見せ、東京五輪、そして未来の日本代表としても期待がかかる大器の強みとは。(取材・文:下河原基弘)

2019年11月05日(Tue)11時10分配信

シリーズ:週刊Jリーグ通信
text by 下河原基弘 photo Getty Images
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勝利を引き寄せたミドルシュート

田中碧
川崎フロンターレのMF田中碧【写真:Getty Images】

 U-22とは言え、王国から2ゴールを奪ったミドルシュートの威力は、ハンパなかった。0-0の前半21分、MF中村憲剛からのパスをペナルティーエリア外で受けたMF田中碧は、力強く右足を振り抜いた。低く鋭くコントロールされたボールは、立ちはだかるサンフレッチェ広島の選手をものともせず、ゴールに一直線に飛んでいく。相手GK大迫敬介が横っ飛びする手の先を抜けて左ポストを叩くと、その跳ね返りがU-22日本代表守護神に当たりゴールに吸い込まれた。

 貴重な先制点をたたき出し、ピッチでは大きなガッツポーズを作っていたが、試合後は「僕のシュートが入っている訳ではないので、そこはまた練習しないといけないですし、また次の試合で、そういう得点パターンを自分の中で増やしていければ」と慢心することなく、さらなる向上を誓うことを忘れなかった。

 首位・鹿島アントラーズが浦和レッズに勝利して、勝ち点を59まで伸ばした翌日の一戦。勝ち点48の川崎Fは、勝たなければ逆転優勝の望みがほぼ絶たれる、がけっぷちの試合だった。相手は同じく、優勝戦線の生き残りを狙う広島。戦前の予想通りに拮抗した厳しい試合となった。

 開始直後は川崎Fが攻め込むも、徐々に広島が盛り返す。その中で、田中が値千金のゴールを決めて流れを呼び込んだ。後半頭から長身FWレアンドロ・ペレイラを投入し猛然とゴールに迫ったアウェイチームに同37分、ミスから同点に追いつかれたが、その2分後に失点のきっかけを作ったDFマギーニョが決勝点を挙げて2-1で勝利した。

田中の心を動かしたあの一戦

田中碧
田中の心を動かしたのは先月に行われた国際親善試合・U-22ブラジル代表戦であった(写真はU-22メキシコ代表戦時のもの)【写真:Getty Images】

 勝利に貢献し、試合を動かしたビューティフルミドル。以前からの武器だったかといえば、そうではない。逆に、「もともと僕はミドルを打つタイプというか、入るとは思ってない人間だったので。打つことに抵抗というか、どうせ相手ボールになるという意味では、自分たちのボールを捨てるという考えだったんですけど」と話すように、有効な攻撃の選択肢として頭に入れてなかった節がある。

 だが、それが世界の強敵相手に、ミドルシュートで2点という結果を残せたことで一変する。「ブラジル戦で、たまたま決めてからは比較的考えが変わったというか。毎試合毎試合決めるというよりは、スペースがあったら打つというのもありなのかなと。そういう意味では今日の試合では自分の前にスペースもできましたし、あれだけ相手がひいている中では、打つことが大事かなと思ったので」と心境の変化を語った。これが先制点につながった。

 一躍、強力な武器となったミドルシュートについて「自分の中では新しいものをつかみ始めているのかなというのはありましたね」と話した21歳。その気づきの部分について、技術や感覚など、どのようなことなのかを質問すると詳しく説明してくれた。

「技術的(な部分)もそうですし、チームの雰囲気だったり、いつ打つのかとか。(ただ)打てばいい話ではないですし、正直ミドルシュートなんてそう入るものではないので。チームの状況だったり、流れも含めて、打つタイミングはつかみ始めているので、その時に自分は思い切って打てればいいかなというのはあります」。技術はもちろんだが、何よりクレバーな状況判断こそが肝ということなのだろう。試合の流れを司るボランチならではの感覚といえるかも知れない。

 そして取材をしていて、もう1つポジティブな印象を受けたのが田中の内面。コメントの端々からにじみ出る向上心、そして気持ちの強さだった。

川崎Fでの飛躍。その先のA代表入りへ

 ミドルシュートが決まったことに、「たまたまです。ブラジル戦もそうですけど、全部相手に当たっているので、まだまだ」と話してさらに練習をすると意気込めば、ゲームコントロールについても「個人としてもそうですし、チームとして勝っている時にどうやってゲームを進めるのか。結果的に1-0でなくて失点しているのは、まだまだ詰めは甘いと思うし、そういうところも含めて2点目を取ることも大事ですし。どうやってゲームを終わらせるかというのは、まだまだこだわらないといけないことかなと思います」と反省を口にした。

 またフェイスガードをつけてやりづらくなかったかという質問には「もちろん、やりづらいですし、見えない部分もたくさんあるし、なかなか難しいですけど。ただ、それを自分はいい訳にしたくないし、見えないからミスするというのもおかしな話なので」ときっぱり。

 続けて「僕は見えないなりに、見る回数だったり、首ふる回数だったりを増やさないといけないと思うし、もちろん難しいのは分かっていますし、慣れてない部分もありますけど、自分の中でいい勉強というか、もっと見る回数を増やせれば、取った時にもっと楽にプレーできると思うので。いい勉強になってますね」と、この経験すら糧にすると言い切った。

 さらに鼻骨の状態に対しても「全然痛くないですよ。全然痛くないです」と断言すると、自陣ゴール前で顔付近にボールが来たシーンもあったが恐怖はなかったかと問われ、「全然ないですね。むしろ来いと思っていました。俺がピンチを救えると思いながら、そしたら来てくれたので、よかったなと。(しっかり頭ではじいて)はい。よかったです」とこともなげに答えた。

 この試合、日本代表兼U-22日本代表の森保一監督が視察に訪れていたが、田中のプレーを称賛していたことが報じられている。東京五輪でのメンバー入りはもちろんだが、その先のフル代表入りも現実味を帯びてきた。

 また佳境を迎えた優勝争い、そして来季以降の川崎Fの戦いにおいても大きな存在になるはずだ。今季は特にホームで圧倒的に攻めて押し込みながら、ゴール前に守備の人数をかけられて勝ちきれない試合が続いた。だが田中のミドルがあれば、相手も警戒して、前に出てこざるを得ない。

「それ(ミドルシュート)によって相手も変化しますし、そういうゴールを増やしていければ必然的に相手も出てくるし、そうすればまた違うアイデアも出てくる。結局、ボールを持っている方が先手を打てるとは思っているので、そういう意味ではその武器というものは個人としては、まだまだ足りないと思いますし、シュートだけでなくて、ラストパスも含めて、個人の武器はもっと増やしていかなければいけないなと思っています」と力を込めた。

 この試合でチームの支柱・中村が左ひざ前十字じん帯を損傷。今季はもうピッチに立てないという、大きなアクシデントがあった。このスケールの大きい21歳の若武者のさらなる成長が川崎Fには必要となるだろうし、それは東京五輪、そしてフル代表の飛躍にもつながるかも知れない。

(取材・文:下河原基弘)

【了】

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