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久保建英は一体なぜ沈黙してしまったのか。タッチ数わずか22回、揃わなかった活きるための条件

リーガ・エスパニョーラ第17節、セルタ対マジョルカが15日に行われ2-2のドローに終わっている。日本代表MFの久保建英は6試合連続のスタメン出場。しかし、この日はタッチ数わずか22回に終わり、途中交代を命じられるなどインパクトを残すことができなかった。ここ最近はハイパフォーマンスを見せていた久保だが、なぜこの日は輝きを放つことができなかったのか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

久保のタッチ数はわずか…

久保建英
セルタ戦で先発出場を果たした久保建英【写真:Getty Images】

 リーグ戦3連敗中と苦戦を強いられていたマジョルカにとって、15日のゲームは下位脱出を図る上でも重要なものとなったに違いなかった。ビセンテ・モレノ監督率いるチームは、リーガ・エスパニョーラ第17節で同じく残留を争っているセルタとアウェイで対戦。是が非でも勝ち点3が欲しい一戦となった。

 そんな大事なゲームで、日本代表MFの久保建英はまたも先発入りを飾る。これでリーグ戦では6試合連続でスタメン出場を果たすことになった。指揮官からの信頼は、確かである。

 ポジションはこれまでと同じく右サイドハーフ。得点という結果はもちろんのこと、前節のバルセロナ戦同様、ボールを持った際には個人で仕掛け局面を打開し、クロスやラストパスなどでチャンスを作り出すことが求められた。

 しかし、立ち上がりからボールを支配したのはホームのセルタであり、久保はなかなかボールに触れることができない。守備の対応に多くの時間を費やしている印象が強く、右サイドでフリーな状況になっていてもボールホルダーとの距離がかなり広がっていたため、味方がそこを使ってくれる回数が極端に少なかった。

 チーム自体も20分に右サイドを崩され、MFラフィーニャにヘディング弾を決められるなど早々に1点ビハインドを背負う。これによってセルタはより落ち着いて試合をコントロールすることができた。久保は失点を許した20分まで、ほとんど仕事を果たすことができていなかったのだ。

 アウェイとはいえ残留を果たす上で勝利が欠かせないマジョルカは、33分にPKをMFサルヴァ・セビージャが沈めなんとか同点に追いつく。これでチームも少し落ち着きを取り戻すかに思われたが、残念ながらそうはならなかった。

 セルタの素早いプレスと降格圏にいるチームとは思えないほどのパステンポの速さに悪戦苦闘したマジョルカは、後半開始早々の50分にFWイアゴ・アスパスにPKを沈められ、あっという間に勝ち越しを許してしまう。後半から左サイドに回った久保だが、そのポジション変更の効果が表れる前に相手に得点を与えた形となってしまった。

 こうして背番号26は、後半もほとんどボールに触れることができず。62分にFWラゴ・ジュニオールがピッチに送り出されてからはポジションを再び右に移したが、それでも状況は好転しなかった。結局、久保は77分にFWパブロ・チャバリアとの交代を命じられ、ピッチを後に。ここ数試合で最も輝きを放つことができていなかったと言える。

 久保はこの日、タッチ数わずか22回でパス本数もわずか23本。ドリブル突破数も0回と、沈黙してしまった。タッチ数22回は先発出場を果たした選手の中ではMFアレイクス・フェバスに次いで2番目に少ない数字。データサイト『Who Scored』内では退場となったDFアントニオ・ライージョに次いで2番目に低い「5.8」という厳しい評価が与えられている。

 ちなみにチームは終盤の83分にFWアンテ・ブディミールが1点を返して2-2で試合を終えている。勝ち点3を積み上げることはできなかったが、リーグ戦の連敗を3で止める形となった。

久保はなぜ生きなかったのか

 バジャドリー、ビジャレアル、レバンテ、ベティス、バルセロナ戦と続けて先発出場を果たしてきた久保は、同5試合でチームとして結果が出ていなくても個人でインパクトを残すことができていた。だからこそ、今回のセルタ戦のパフォーマンスは納得のいかないものになった。これほど何もできなかったのは、マジョルカ加入後ではあまりなかったかもしれない。

 では、なぜ久保は輝きを放つことができなかったのか。いくつかの理由は試合の中から見て取れた。

 まず、セルタが久保をマジョルカの最大の危険人物として徹底的にマークしてきたこと。1人ではなく、2人以上でスペースを消しながら対応してきたのは非常に厄介だった。26分の場面では右サイドでボールを持った久保に対し、セルタの守備陣はなんと3人でレフティーを囲んだ。こうなると久保がなかなか仕事を果たせないのは当たり前だ。

 もう一つ痛かったのは久保を徹底マークしてくる相手だが、そうすることによって使えそうなスペースを味方がなかなか突けなかったこと。これによりセルタの守備陣は久保に対するマークのやり方を変える必要がなく、より強度を高めて挑むことができたわけだ。仮に久保にマークを付けたことで生まれた綻びを味方が生かせれば、セルタの守備陣も修正を施す必要があったはず。そうすれば久保に対する守備のやり方も変わり、久保にとってもプレーしやすい状況は整った可能性はあるが、残念ながらそうはならなかった。

 ただ、当然ながら久保がフリーになる場面もあった。しかし、左サイドからの攻めが基本となっているマジョルカの場合、ボールホルダーと右サイドの久保との距離が広がっていることが多く、いくら久保がフリーでもそのエリアまでボールを運ぶことができない。もちろん味方もセルタの強度の高いプレスに苦戦していたため、反対サイドを確認してボールを蹴る余裕もない。

 仮に右サイドからビルアップを開始してもセルタ守備陣が素早く久保に寄せるため、マジョルカの選手は勝負パスを送ることなく簡単にバックパスで組み立て直す。この繰り返しであった。こうなると、必然的に久保のタッチ数は減るというわけだ。

 また、久保にとって最もボールに触れるチャンスがあるカウンターの場面でも、攻守の切り替えが素早いセルタに対しマジョルカ側が焦り簡単にボールをロストするシーンも目立った。高い位置からプレスをかけてもセルタの正確なビルドアップでことごとくそれらを外され、ショートカウンターも発動しない。この日は久保が生きる条件が何一つ揃っていなかったと言えるだろう。

 ビセンテ・モレノ監督は試合後、久保を擁護するコメントを発している。もちろん1試合のみですべての評価をつけることはできない。今日の出来を成長へと繋げ、またピッチ内で躍動してほしいものだ。

 余談だが、この日最も理解できなかったのはセルタが18位という順位にいること。とても残留争いを強いられるようなチームには見えなかったが…。

(文:小澤祐作)

【了】

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