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日本代表 4年前

日本代表、田中碧に芽生えた「局面やゲームを変える」意識。目指すべきロールモデルは6年前のMVP【E-1サッカー選手権】

日本代表は18日、EAFF E-1サッカー選手権で韓国代表と対戦する。ここまで両チームとも2連勝で、日韓戦は優勝を賭けた一戦になる。今季、川崎フロンターレで主力に成長し、U-22、そして今大会メンバーにも名を連ねる田中碧は、「『引っ張られる選手』じゃなくて『引っ張れるような選手』にならないといけない」と自らの意識の変化を明かす。日韓戦のキーマンの1人はどのようなプレーを見せるのだろうか。(取材・文:元川悦子【韓国】)

text by 元川悦子 photo by Getty Images

韓国戦は「2試合とは少し違うゲームになる」

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日本代表の田中碧【写真:Getty Images】

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 EAFF E-1サッカー選手権も18日の最終戦・日韓戦を残すのみ。ここまで2連勝同士の対戦となるが、日本は得失点差で相手を上回っていて、引き分け以上で3大会ぶり2度目のタイトルを手にできる。加えて試合間隔も相手より1日長い。これには敵将のパウロ・ソウザ監督も不満を吐露したほどだ。

 しかも、初戦と2戦目でメンバー総入れ替えに踏み切った日本とは異なり、彼らはキム・ミンジェ(北京国安)やナ・サンホ(FC東京)らキープレーヤー4、5人を連続起用している。その疲労を考えても、やはり日本の方が有利と言っていい。

 けれども、大迫敬介が「ここ2試合とは少し違うゲームになる。相手は勝たないと優勝がないのでどんどんゴールを狙って前がかりになってくると思います」と警戒するように、韓国は凄まじい闘争心を前面に押し出して向かってくるはずだ。

 その気迫が日韓戦経験者の少ない今回の森保ジャパンの落とし穴になりかねない。今一度、チーム全体がしっかりと気持ちを引き締めて大一番を迎えることが肝要だ。

「引っ張られる選手」から「引っ張る選手」へ

 本番を2日後に控えた16日、日本は夕方から試合会場となる釜山アジアード競技場のサブグランドでトレーニングを実施。この日も香港戦先発組とそれ以外に分かれた調整だった。ただ、前者のうち、後半早い時間帯に退いた田中碧だけは、後者に入って実戦形式のトレーニングに参加。サイドチェンジとクロスを入れながらのシュート練習では、井手口陽介とボランチコンビを結成。この2人が最終決戦で中盤を統率する可能性がやはり高そうだ。

「守備も攻撃もすごくクオリティが高いと思って見ていた。いい選手だと思います」と井手口は2つ年下の若武者を前向きに評したが、今年1年の田中碧の凄まじい成長度は誰もが認めるところだ。

「Jの試合に出始めた頃はついていくことに必死だったけど、初めてU-22代表に呼ばれて(トゥーロン国際で)プレーさせてもらったときから、少しずつ『フロンターレの中で引っ張られる選手』じゃなくて『引っ張れるような選手』にならないといけないと感じるようになった。自分が1人の選手として局面やゲームを変えることを、ボールを保持してても、保持してなくても、どういう敵と戦おうとも、やっていかないといけないと考えるようにもなりました」と本人も自らの意識が大きく変わったことを明かす。

 そうやって積極的にアクションを起こしていく重要性は、A代表での実績で上回る井手口と組んだときも変わらない。タイプ的にはボール奪取に優れる井手口が少し前目に陣取って、韓国の中盤をコントロールするファン・インボム(バンクーバー)やチュ・セジョン(牙山FC)らをチェックに行き、田中碧がやや後方からサポートしながらボールを配るという役割をこなすことになりそうだ。

田中碧が目指すべき理想形

「中国戦に出た人たちとそんなに練習を一緒にやっていないので、難しいところはありますけど、そこは喋りながらやれればいいかなと。お互いの特徴があって、そこを生かす作業が一番大事なので、ボールを進める作業もそうですし、ボールを奪う作業ってものもフォーカスしてやっていければいいかなと思います」とバランスを取りながらベストな関係性を追求していく考えだ。

 そんな田中碧が目指すべき1つの理想形は、2013年大会優勝時にMVPに輝いた山口蛍ではないか。当時の山口はまだ22歳。前年にはロンドン五輪4位の一員となり、Jリーグでもそこそこの実績を積み重ねてはいたものの、この頃はまだ「A代表に滑り込む段階」だった。

 スタメン出場した中国戦と韓国戦では、年長の青山敏弘とコンビを組み、守備面での献身性を前面に押し出してパートナーをサポートし、タイトル獲得に貢献。この活躍ぶりを当時のアルベルト・ザッケローニ監督に認められ、2014年ブラジルワールドカップ行きを勝ち取った。

 その後、彼が2018年ロシアまで代表の軸の1人と位置付けられたのは周知の事実。E-1サッカー選手権、とりわけ日韓戦の活躍というのは、それだけ大きな意味があるのだ。21歳の田中碧も同じようなスター街道を歩むポテンシャルを大いに秘めている。

U-22世代のボランチ

「日韓戦は小さい頃から見てきたもの。そこはいろいろ自分の中で思うところはありますし、やっぱり負けちゃいけない相手なんで、すごく厳しい試合になるのは分かってます。なかなか簡単に勝てる相手ではないと思いますけど、自分の力っていうのを最大限出せれば敵わない相手ではない」と彼は語気を強めた。

 その思いは2年前に屈辱的な4失点での大敗を経験した井手口にも共通するはず。中盤をコントロールする2人が同じメンタリティを持って戦えば、チーム全体の一体感や結束力も高まるはず。そのうえで、相手の個の力や球際をしっかりと封じて、中盤を制圧することができれば、日本は確実に勝利に近づくに違いない。

 この試合で韓国相手に十分通用することを示せれば、田中碧が2020年東京五輪でのボランチの一角を占めることもほぼ確実になるだろう。柴崎岳のクラブでの苦境と負傷によってオーバーエージ招集の行方も流動的になってきているだけに、やはりU-22世代のボランチが戦えるところ示さなければ、半年後の自国開催の大舞台に暗雲が立ち込める。そういう意味でも、彼にはどうしてもやってもらわなければならないのだ。

 18日の釜山アジアード競技場で、果たして日本は2度目のE-1サッカー選手権の優勝カップを掲げることができるのか。その行方を左右するであろう21歳と23歳の若きボランチコンビの一挙手一投足から目が離せない。

(取材・文:元川悦子【韓国】)

【了】

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