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東京五輪 4年前

U-22日本代表、今のままで東京五輪メダル獲得は無理。何よりも森保監督の負担軽減を

東京五輪まで約半年。自国開催の大舞台でメダル獲得に挑むU-22日本代表の前には、数々の問題が転がっている。いつまでもベストメンバーを組めない選手招集事情だけではない。森保一監督がA代表との兼任であるがゆえの無理難題も大きな懸念材料であり、チームの強化に負の影響を及ぼしかねない。(取材・文:元川悦子【長崎】)

text by 元川悦子 photo by Getty Images,Shinya Tanaka

東京五輪世代を動かしたリーダーシップ

U-23日本代表
U-22日本代表は28日、U-22ジャマイカ代表と対戦し、9-0の大勝を収めている【写真:Getty Images】

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 中山雄太の開始6分の直接フリーキックに始まり、来季から川崎フロンターレ入りする旗手怜央の2発に、前田大然と安部裕葵の両欧州組のゴールも生まれて前半を5-0で折り返したU-22日本代表。

 28日に行われたキリンチャレンジカップ2019、前半45分間で戦意喪失したU-22ジャマイカ代表に対し、彼らはさらに畳みかけた。

 後半はU-22代表初招集の東俊希や一美和成の追加点に、三苫薫や岩崎悠人のダメ押し点と、終わってみれば9-0の大勝。森保一監督も「対戦相手の力と差があったので、一概に勝ち負けだけで選手の選考はできない」とジャマイカとの実力差を認めつつも、「選手たちは先への可能性を見せてくれた」と前向きにコメントしていた。

 確かに今回のU-22日本代表は11月のU-22コロンビア代表戦の時とは違った意識で戦っていた。キャプテンマークを巻いた中山も「試合前にどれだけチームが共通意識を深めて準備をしていくかが大事だった」と話したように、「不甲斐ない負け方をした前回と同じ轍を踏んではいけない」という強い危機感で全員が試合に挑んだ。

 9月の北中米遠征以来の合流となった安部も「1人の選手として自分の意見を出し、周りの意見も聞いて、充実した話し合いができた」と東京世代でも年下にもかかわらず、強いリーダーシップを持ってピッチ外で動いていたことを明かした。

 彼らのような中心としての自覚のある選手たちが「少し緩さの垣間見える集団」から「鬼気迫る姿勢で戦える集団」へとチームを変貌させたことが、2019年の代表活動の総決算となるゲームでのゴールラッシュにつながったと言っていいだろう。

 とりわけ目を引いたのが、前線からのアグレッシブな守備だ。1トップの前田大然が猛然と相手を追い、旗手と安部の2シャドーがフォローし、松本泰志と中山の両ボランチがボール奪いにいき、長沼洋一と東俊希の両ウィングバックも高い位置を取るといった連動性のあるハイプレスができていたのだ。

東京五輪まで半年。次にベストメンバーを組めるのは…

 ボールを奪われても素早い切り替えから奪い返してカウンターにつなげる場面も数多く見られたが、そこは森保監督も高く評価していた点だ。久保建英や堂安律らA代表に定着した選手たち、あるいはオーバーエイジの選手たちが合流しても即座に相互理解を深め、ジャマイカ戦のような高度な意思統一を実践できるようなチームを作れれば、東京五輪でのメダル獲得も見えてくる。指揮官もそんな理想像を描いているのかもしれない。

 しかしながら、成功への道はまだまだ険しい。東京五輪への強化は断続的にしかできず、ベストメンバーがいつ揃うか現時点では確証が全く得られない状態だからだ。2020年に突入して最初の公式大会となる1月のAFC U-23選手権もほぼ国内組のみの構成で臨む。

 欧州組はスコットランド1部のハーツでプレーする食野亮太郎しか招集できず、クラブ側の理解が得られそうだった中山と前田も見送りになった。唯一招集できた食野も現状ではグループリーグの3試合だけの参戦ということで、最強布陣とは程遠いメンバー構成で挑まざるを得なくなったのは間違いない。

 3月に予定されているU-23南アフリカ代表やU-23コートジボワール代表との2連戦も、A代表の2022年カタールワールドカップアジア2次予選の佳境であるミャンマー代表戦および、アウェイのモンゴル代表戦と日程が重複する。そのため久保や堂安、冨安健洋はワールドカップ予選優先になると考えても差し支えないだろう。

 仮にA代表が3月にカタールワールドカップのアジア最終予選進出を決められなければ、消化試合になる6月のタジキスタン代表戦とキルギス代表戦も東京五輪代表の強化には使えないかもしれない。

 森保監督自身も実質的に3つのチームを指揮して不発に終わった11月のような超過密日程を強いられるだけに、東京五輪代表の強化に集中できない可能性が高い。大会直前は長期間の合宿ができるものの、それだけでチーム完成度を最高レベルまで引き上げられる保証はない。現状のままでは難題が多すぎるのだ。

多すぎる難題。森保監督の負担軽減を

森保一
森保一監督にかかる負担が大きいのが現状だ【写真:田中伸弥】

「東京五輪までの半年間は森保監督を五輪世代の指導に集中させるべき」という意見も出ているが、U-22ジャマイカ代表戦を視察した日本サッカー協会の田嶋幸三会長の口からそういった発言は出なかった。

 となれば、やはりA代表と東京五輪代表の掛け持ちは来年も続くのだろう。指揮官の負担を軽減し、東京五輪で本当にメダルを獲得するための体制をいち早く構築しない限り、自国開催の大舞台で1968年メキシコ五輪の銅メダルを超える結果を出すのは難しいのではないだろうか。

 数々の問題を抱えているものの、森保監督はまずAFC U-23選手権でアジア王者の座をつかむことに集中しなければならない。29日に発表されたメンバーは12月のEAFF E-1サッカー選手権に参戦した上田綺世や小川航基、田中碧らが軸だ。

 そこに今回のU-22ジャマイカ代表戦でアピールに成功した旗手や松本、岡崎慎らが加わったが、東京五輪出場が当確と言い切れる選手は誰もいない。欧州組やオーバーエイジ選手が控えているだけに、コパ・アメリカ参戦組の上田や杉岡大暉、大迫敬介でさえも安泰とは言い切れないところがある。

 それだけに、今回AFC U-23選手権に参戦する選手たちには「結果」と「内容」の両方が求められてくる。大きな実力差のあるU-22ジャマイカ代表に大勝できたとしても、来月8日に開幕する東京五輪の予選を兼ねた大会のグループリーグでアジアの強敵であるサウジアラビアやシリア、カタールに勝ち切れなければ何の意味もない。

 上のステージまで行けば、E-1サッカー選手権で苦杯を舐めさせられた韓国代表との再戦もあるだろう。そこでタフな戦いを見せ、勝利という結果を残してこそ、明るい未来は開けてくる。森保監督も選手たちもここからが本当の勝負だと再認識して、U-22ジャマイカ代表戦の収穫と課題を先につなげる努力を怠らないでほしいものだ。

(取材・文:元川悦子【長崎】)

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【了】

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