エジルやジャカが蘇る。アーセナルにアルテタ監督が仕込んだ合理的なビルドアップ戦術

プレミアリーグ第22節が現地11日に行われ、アーセナルとクリスタル・パレスが1-1で引き分けた。後半はイレギュラーが多かった一方、アーセナルが前半に見せた戦いは未来への希望を抱かせるのに十分だった。ウナイ・エメリ政権で冷遇されて輝きを失っていた実力者たちが、ミケル・アルテタ監督に再び磨かれ、躍動感を取り戻しつつある。(文:舩木渉)

2020年01月12日(Sun)12時40分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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アルテタ監督が仕込んだビルドアップの型

メスト・エジル
メスト・エジルはアーセナルで輝きを取り戻しつつある【写真:Getty Images】

 アーセナルは、かつての攻撃的な姿を取り戻しつつある。アーセン・ヴェンゲル監督が率い、魅力的なパスサッカーを披露していた、あの頃のように。

 現地11日に行われたプレミアリーグ第22節、アーセナルはクリスタル・パレスと対戦し1-1で引き分けた。65分にFWピエール=エメリク・オーバメヤンが危険なタックルを見舞って退場となり、終盤にかけて不本意な出来になってしまったとはいえ、特に前半の45分間は今後への期待を抱かざるを得ない内容だった。

 最も進歩が見られるのはビルドアップの局面だ。ウナイ・エメリ監督時代、チーム全体がまともに機能しなかった要因の1つがビルドアップの粗さだった。フレドリック・リュングベリ暫定監督からアーセナルの指揮権を引き継いだミケル・アルテタ監督は、まず攻撃の組み立てにおける組織戦術の整備に取り掛かった。

 ある程度先発メンバーを固定しながら、自分たちの意図した形でボールを前に運べるように選手たちの配置や動き方を調整していく。クリスタル・パレス戦でも基本布陣は4-2-3-1ながら、自陣から攻撃を組み立てる際は擬似的な3バックを形成する様子が見られた。

 相手のプレッシャーの最初のラインを超えるために、MFグラニト・ジャカがセンターバック2人の左横に下がって、ディフェンスラインのパス回しに加わる。そして左サイドバックのDFセアド・コラシナツがウィングかと見間違えるほど高いポジションを取る。

 すると左サイドのオーバメヤンが1トップのFWアレクサンドル・ラカゼットと近い距離感でプレーできるようになる。トップ下のMFメスト・エジルも周りのアタッカーたちとの距離が近くなったことで、生き生きと動き回るようになった。

アタッカー陣が奏でたハーモニー

 基本的にはショートパス主体で攻撃を組み立てるが、両サイドの高い位置に基準となる選手が立つことで、後方からのサイドチェンジのロングパスも崩しのパターンの1つになった。左利きのジャカ、右利きのDFダビド・ルイスというフィード力に定評のある2人が、自らの武器を生かせるようにもなった。

 また、コラシナツとDFエインズリー・メイトランド=ナイルズは後ろ向きでの守備対応や攻撃から守備への切り替えに難を抱えているが、攻撃時に3人の選手が後方で構えることによって、そういった弱点をカバーする余裕も作り出すことができている。

 クリスタル・パレス戦の14分にアーセナルが奪った先制ゴールは、新体制の攻撃を象徴しているようだった。

 ダビド・ルイスがフリーで相手陣内までボールを運び、エジルへ鋭い縦パスを通す。体がゴールに向いていなかったエジルは、すぐ横のラカゼットにワンタッチで預け、相手ディフェンスの視線を引きつけながら後ろに抜けた。

 その間、左サイドから中に入ってきていたオーバメヤンが、ラカゼットに気を取られて背後にギャップを作ってしまったクリスタル・パレスのディフェンスラインの裏へ走る。すると、それを見たラカゼットは、すぐにスルーパスを選択した。

 オーバメヤンは今季14ゴール目。前線の核となるアタッカーたちが、これだけ近い距離で有機的な連係プレーを見せると、相手ディフェンスはお手上げだろう。後方からのビルドアップが安定したことで、ラカゼットやオーバメヤンらが孤立せずにチャンスメイクに絡めるようになったことは大きい。

 クリスタル・パレスでは決して絶好調とは言えず、オーバメヤンの退場もあって70分に交代となったエジルも不満を漏らすことなく「最終スコアは残念だ。僕たちはアウェイで勝利するために一緒になって戦ったが、ああなるはずではなかった。ポジティブに信じ続けよう、ガナーズ」とツイートしたのもアルテタ監督への信頼の表れだろう。

 エメリ体制で冷遇され続けた背番号10は、別のインタビューの中で「基本的にはかつてのアーセナルの伝統に立ち返ろうとしている。ポゼッションし、試合をコントロールして、常にボールを持ち続けるということだ」と新監督就任による変化を好意的に捉えている。

「僕はプレーメイカーとして、多くのスペースが必要とする。彼の戦術ではそのスペースを確保することができている」と語るエジルのアルテタ監督への心酔ぶりは相当なもので、かつてヴェンゲル監督の下でともにプレーした盟友がアーセナルの本来あるべき姿を取り戻してくれると信じているようだ。

「僕たちは今、すべてのことを本当に楽しんでいる。僕たちにピッチ上で組織があることを見られるだろう。誰もがピッチ上での自分の仕事を理解している」

アルテタ・アーセナルに残された大きな課題とは

ミケル・アルテタ
ミケル・アルテタ監督は低迷するアーセナルの改革を進める【写真:Getty Images】

 ただ、まだアルテタ監督には手をつけるべき課題が残っている。それは守備だ。アーセナルは54分にFWジョルダン・アイェウに同点ゴールを奪われるが、この時の対応は緩かったと言わざるを得ない。

 サイドに出たパスに対してコラシナツの寄せが甘く、フリーで簡単にクロスを上げられ、ペナルティエリア内ではダビド・ルイスの反応が遅れて処理を誤り、こぼれ球へのジャカの寄せも一瞬遅れた。最後のダビド・ルイスのシュートブロックも、少し足を出しただけで不十分なのは明らかだった。

 アルテタ監督は試合後、「我々はゴールに対し、スイッチを切ってしまっていた。(サインプレーの)フリーキックを簡単に蹴らせ、相手にクロスを上げさせてしまい、ディフレクションを起こさせ、私はあれに失望した。プレミアリーグのレベルで、2秒間や5秒間でもスイッチを切れば、すぐにゴールを許してしまう。あのような状況が起きないようにする方法を見つけようとしなければならないし、今日はもう起こってしまった。あのゴールによって我々は2ポイントを犠牲にした」と失点場面での集中力欠如を嘆いた。

 アーセナルがアルテタ監督就任以降のリーグ戦4試合で無失点を達成したのは、2-0で勝利したマンチェスター・ユナイテッド戦のみだ。失点が減らないことは、まだリーグ戦で連勝できていない要因の1つでもあるだろう。

 冬の移籍市場ではバイエルン・ミュンヘンで出番を失いつつある元ドイツ代表DFジェローム・ボアテングや、RBライプツィヒで活躍するU-21フランス代表DFダヨ・ウパメカノといったセンターバックの補強に動いているとされる。

 アルテタ監督は「現時点では誰も来ない」と述べたうえで、「クラブはいくつかのことで動いているが、この移籍市場がどれほど難しいかはお分かりかと思うし、私は多くのことは期待していない」と明かした。

 1月中に、信頼できる守備の新戦力の補強がうまくいく保証はない。現有戦力を活用して、いかに守備組織を整備していくか。短期間で攻撃面の劇的な改善を引き出したアルテタ監督の手腕が試される。

(文:舩木渉)

【了】

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