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セリエA 4年前

冨安健洋は勝利へのキープレーヤーに! 対峙したスピードスターを抑制、見せつけた潜在能力の高さ

セリエA第21節、SPAL対ボローニャが現地時間25日に行われ、1-3でアウェイに乗り込んだボローニャが勝利している。日本代表DFの冨安健洋はこの日も先発フル出場。41分には決定的なピンチで決死のブロックを見せるなど、試合の流れを変えるキープレーヤーになった。高い潜在能力を見せつけたと言えるだろう。(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

決定的なピンチを瞬時の判断でブロック

冨安健洋
ボローニャのDF冨安健洋は攻守に決定的なプレーを披露しSPAL戦勝利に大きく貢献【写真:Getty Images】

 セリエA第21節、SPAL対ボローニャの41分。中盤に落ちてきてボールを受けたSPALのFWアンドレア・ペターニャは、マーカーを背負いながらターンをし、前を向いた。ボローニャの守備が1枚剥がされ、局面で数的優位だった状況が崩される。ゴールを向いて突破を図るペターニャや、前線に走ろうとする相手選手に意識が向くため、ボローニャの組織守備が崩れ、ぽっかりと開いた右サイドには、SPALの俊足左アウトサイド、アルカディウシュ・レツァがフリーで走り込んだ。

 一直線にシュートを狙える状況で、ボローニャのGKウカシュ・スコルプスキは前方へ飛び出す。このとき、中央に絞って前線に走ってくる相手選手をケアしていた冨安健洋は、瞬時に的確な判断を下して動いた。

 前線に駆け抜ける選手をカバーしながら、ペターニャが出したパスを視野に入れて、レツァに目掛けてダッシュする。そしてスコルプスキが飛び出していたことを見てとると、その裏へと走り込んだ。そのままレツァのシュートコースへと体を滑らせると、そのシュートが足に当たった。

 相手のゴールを帳消しにした奇跡的なクリアは、試合を左右する上ではゴールを決めたのと同じ重みのあるようなことだ。事実ボールを支配しながらも、SPALのカウンター攻勢に苦しめられていたボローニャは、その後にムードを変えて試合を制することになる。そんな試合で冨安は、流れを変えるキープレーヤーの1人となったわけだ。

間接的に失点関与も…その後は軌道修正

 前半の最初のうちは、苦戦気味だった。

 降格圏へと沈んでいたSPALだったが、徐々に巻き返しを図っていた。前節はすっかり強豪の仲間入りをしてしまったアタランタを、なんとアウェイで破っている。レオナルド・センプリチ監督は、その時のメンバーをそのままボローニャにぶつけてきた。

 冨安の対面には、ポーランド代表のMFレツァがいた。アタランタからレンタル移籍していたアウトサイドで、爆発的なスピードを持ち味とする。アグレッシブな守備から屈強でテクニックのあるFWのペターニャにボールを預け、ボローニャの守備陣を引きつけたのちに、できたサイドのスペースにレツァを走らせる。そのスピードのある突破には、冨安も一度やられてしまっていた。

 前にいる右サイドハーフのリッカルド・オルソリーニとの距離感がよくなく、プレッシャーをかける前にサイドのスペースに走られてしまうのである。そして20分、冨安はレツァと右サイドでマッチアップするが、フェイントに引っかかってあっさりと置き去りにされてしまった。そしてボールが中央で折り返されると、センターバックのナウエン・パスが相手FWを倒してPKに。間接的とはいえ、失点につながる要因となっていた。

 ただ、その後は引き締め直した。スピードにはスピードで対処し、的確なカバーリングを行う。またオルソリーニやロベルト・ソリアーノに後方から正確なパスを供給し、右サイドで攻撃を組み立てた。そして冒頭に述べたシュートブロックのシーン。決まれば確実に試合の流れを持っていかれたであろうところを、自らのプレーで断ち切ったのである。

ますます高まる冨安の存在感

 後半には戦術的な修正も施され、チーム共々守備の安定感は増した。今までオルソリーニをカバーするように引き気味のポジションを取っていた冨安が、より前から積極的にレツァを捕まえにいくようになる。MFのイェルディ・シャウテンが必ずヘルプにつき、相手を前から捕まえにいった場合には後方をダニーロらがカバーしている。冨安はより安心してレツァに喰らいつき、簡単にクロスを上げさせなかった。

 そしてチームが逆転に成功したのは63分。冨安は今度は得点にも関わるようになる。オーバーラップをしたのち高い位置に残り、サイドの深い位置でボールをもらうや顔を上げて中央への視野を確保する。FWのロドリゴ・パラシオが相手ディフェンスの前に陣取っていたのを見抜くと、グラウンダーで正確なクロスを通した。するとパラシオはこれをスイッチとし、前線でフリーとなっていたソリアーノにダイレクトでパス。これがファーサイドへと渡り、アンドレア・ポーリが押し込んでゴールを決めた。

 冨安はその後も、きっちりとプレー。守備ではレツァにスピードで渡り合い、逆に攻撃に出れば周囲の味方と小気味よくパスを回してチャンスを作った。前半で猛威を奮っていたレツァが、後半には完璧に抑えられた。本職はセンターバックだが、スピードのある相手の上下動にも、まるでサイドバックで長年やっていたかのように難なく対応。改めて、この男の高い潜在能力を見せつけられた思いがした。

 試合後、シニシャ・ミハイロビッチ監督の代わりに記者会見に応じたエミリオ・デ・レオ戦術担当コーチは「先制ゴールを喰らってから、精神的にもすぐに仕切り直そうとしたのが良かった」と試合内容に一定の評価を与えた。

 そのムードの一翼を担ったことで、冨安の存在感はますます高まっていると言える。この日終盤にイエローカードをもらい、次節のブレシア戦は警告の累積によって出場停止になることが決まってしまったが、果たしてチームにどんな影響が残るのか。

 なお、ボローニャについては長友佑都の獲得が噂さされていたが、チームの補強についてデ・レオコーチは「監督とフロントは、中長期的な視野で戦力を見極めている。試合の結果によって近視眼的に補強をすることは特に考えていないと思う」と、即戦力を欲するための補強を暗に否定した。

 ボローニャはEU圏外国人選手の獲得可能スロットをあと1つ残しているが、そんな彼らは果たしてベテラン選手の補強へと動くのだろうか。いずれにせよ、そちらの行方もまた注目である。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

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