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セリエA 4年前

ミラノダービー、神様イブラヒモビッチ降臨も…ミランはなぜ崩壊したのか? インテルが蘇った45分間

セリエA第23節、インテル対ミランが現地時間9日に行われ、4-2でインテルが勝利している。前半はイブラヒモビッチの1得点1アシストなどで2-0とリードしたミランだったが、後半に守備が崩壊。4失点を喫した。この逆転劇はどのようにして起こったのか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

前半、ミランがインテルを圧倒

ミラン
【写真:Getty Images】

 通算225回目の開催となった伝統のミラノダービーは、周囲の期待を裏切らぬ激しい展開となった。リーグ制覇を狙うインテル、年明け以降無敗を維持するなど、上位進出を目指すミラン。この両者の意地とプライドが、しっかりとピッチ上に表れていたと言えるだろう。

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 戦前の予想では、インテル有利との見方が強かった。第22節終了時点でミランよりも上の順位につけており、選手の質でもロッソネロを上回っているので、当然と言えば当然だ。この日のインテルはGKサミール・ハンダノビッチやFWラウタロ・マルティネスらが不在だったが、それでも豪華な戦力を揃えていることに変わりはなかった。

 しかし、ミランはその予想を見事に裏切る立ち上がりを見せた。インテルのビルドアップの起点となるアンカーのMFマルセロ・ブロゾビッチにはMFハカン・チャルハノールをマンマークで張り付け、自由を与えない。守備時は全体のラインを高く保ち、中盤に危険なエリアを作らせないことでインテルのラインアップを阻止した。

 攻撃時はパスの収め所となるFWズラタン・イブラヒモビッチの周りにチャルハノールを配置することで、ボールの動きがよりスムーズになった。両サイドバックも高い位置を取り、インテルの両ウィングバックをプレスバックへと誘う。こうしてインテルは全体のラインが自陣深い位置へと固定され、なかなか前に進むことができず。ほとんどミラン陣内へボールを運ぶことが許されなかった。

 この日、中盤底に入ったMFイスマエル・ベナセルは攻撃時も全体のバランスを整え、インテルのカウンターに備えていた。前に出るときは恐れずにボールを刈りに行き、そうでない時はステイしながら危険なパスコースを的確に遮断。集中力を切らさず、スムーズな判断力でインテルを苦しませた。

 こうなるとインテルの2トップ、FWアレクシス・サンチェスとFWロメル・ルカクは仕事を与えてもらえない。事実、15分までルカクのボールタッチ数はわずか2回となっている。両ウィングバックもミランの攻撃的なサイドバックをケアするのに精一杯で、インテルは攻撃面でまったく怖さを引き出せなかった。

 一方でミランは攻撃時も鋭さを出した。インテルを押し込めた要因の一つには、チャルハノールを的確に使えたということが挙げられるだろう。相手の3バックとアンカーの間のスペースをうまく突き、そこから左右、または縦へリズムを変えながらボールを配給していた。インテルは、ここをなかなか捕まえきれなかったのが痛かったと言える。

神様・イブラヒモビッチが降臨

ズラタン・イブラヒモビッチ
【写真:Getty Images】

 攻守の切り替えが素早く、チームとして高い集中力を保ったミラン。実力で上回るインテルを相手に、これ以上ない立ち上がりを送っていたと言えるだろう。

 しかし、やはり弱点はあった。それが、左サイドバックのDFテオ・エルナンデスの裏のスペースだ。

 今季ミランにやって来たT・エルナンデスは超攻撃的なサイドバックである。フィジカルの強さを生かした強引なドリブルで相手陣内を切り裂き、そこから一気にフィニッシュまで持ち込むことができる。まるで、ひと昔前のFWガレス・ベイルを彷彿させるかのような存在だ。

 この日もインテル相手にまるでウィングのようなポジションでプレーしたT・エルナンデス。だが、そうなるとやはりカウンター時は守備の枚数が足りなくなる。基本的にはDFアレッシオ・ロマニョーリがそのエリアのカバーに回るのだが、そこを外されるとピンチは必然的に訪れる。23分にはロマニョーリが外に釣り出され、ルカクに突破を許し、最後はMFマティアス・ベシーノに決定機を作られた。ここは、ミランが抱えていた不安の一つだった。

 だが、そんな不安を払拭させたのがあの男だった。ズラタン・イブラヒモビッチである。

 この日も最前線で身体を張った背番号21は、とにかくボールを収める。その恩恵を受けた2列目の選手は必然的に前を向いてプレーできるため、ミランの攻撃はさらに加速した。38歳という年齢ながら、強敵・インテル相手にもその怖さを存分に示した。

 そして39分、FWサム・カスティジェホのロングボールを受けたイブラヒモビッチが頭で落とすと、最後はFWアンテ・レビッチが押し込みミランが先制。先発復帰となったこの試合で、元スウェーデン代表FWは大きな仕事を果たした。

 さらに前半AT、コーナーキックから最後はファーサイドでイブラヒモビッチがヘディング。GKダニエル・パデッリの手をはじき、これがゴールに吸い込まれた。

 DFミラン・シュクリニアル、DFディエゴ・ゴディン、DFステファン・デ・フライとインテルの最終ラインには屈強な男たちが揃うが、イブラヒモビッチの前ではすべてが無力だった。競り合いの強さは圧巻で、ゴール前の存在感も別格。背番号21、その姿はまさに「神」そのものであった。

 イブラヒモビッチの活躍もあり、ミランは前半を2-0で折り返した。シュート数13本に対し、被シュート数は6本。攻守両面でインテルを上回る充実な戦いぶりを見せた。この時点でミランの勝利を確信した人も多かったのではないだろうか。

コンテの修正力とピオーリの力不足

 しかし、この状況を見てこの男が黙っているわけがない。アントニオ・コンテ監督だ。後半、やはり同指揮官は修正を施してきた。

 コンテ監督は攻撃面ではなく、守備面の改善に着手した。前半は自陣に引き気味であった中盤のラインを押し上げ、相手のボールホルダーに対し高い位置からプレスに行くよう指示。前半はボールをうまく回されたが、後半は全体の運動量を上げ、ミランのビルドアップを高い位置から阻止しにかかったのだ。

 すると、これが効果を発揮。ミランは素早いアプローチに苦戦し、前半ほどスムーズにボールが回らない。セカンドボールも運動量を上げたインテルにことごとく拾われ、今度はミランが自陣に固定される展開に変わった。

 もともとインテルの攻撃面のクオリティは高い。相手を深い位置まで押し込めれば、崩し切る力は持っている。コンテ監督は守備の改善から着手したが、その判断は正しかったと言えるだろう。

 インテルはその勢いのまま、51分にブロゾビッチが強烈なミドルシュートを叩き込み1点を返す。さらに53分にはベシーノがゴールネットを揺らし、あっという間に同点に追いついた。

 前半は存在感を失っていたルカクとA・サンチェスも水を得た魚のように躍動し、MFニコロ・バレッラやMFアントニオ・カンドレヴァは豊富な運動量で攻守に渡り躍動。インテルの後半の勢いは、もはや制御不能だった。ミランは、ただただ耐えるしかなかった。

 しかし、荒波を受け続けた防波堤は決壊。ミランは70分にデ・フライにゴールを許し、ついに逆転を許した。ペースは完全にインテル。この時点でミランに勝利への希望は残されていなかった。

 前半はMOM級の輝きを見せたチャルハノールは、疲労の影響でボールに絡めない。インテルの素早いプレスによって、頼みの綱であるイブラヒモビッチにもボールが入らなかった。こうなるとミランの攻撃がストップするのは当たり前。ステファノ・ピオーリ監督は選手交代を行うだけで、ピッチ内で起こっていることに対するアクションは皆無であった。

 後半ATにはルカクにもゴールが生まれ、最終スコアは4-2。勝利したインテルは、前日にエラス・ヴェローナに1-2で敗れたユベントスを交わし、首位に浮上した。一方で敗れたミランは10位に転落。この敗戦による影響は良くも悪くも大きそうだ。

 アルベルト・ザッケローニ氏、現イタリア代表監督のロベルト・マンチーニ等、重鎮が見守る中行われた今回のミラノダービー。この試合で光ったのは、やはりコンテ監督の修正力というところだろう。前半の出来は今季一番と言っていいほど最悪なものとなったが、そこから勝利に結びつける采配は見事というべきだ。選手のクオリティだけではなく、監督の力が与える影響を感じることができた試合になった。

 一方でピオーリ監督は力不足だった。相手の修正を上回る策を用意できず、後半は歯車がかみ合わずに崩壊。前半の戦いぶりは見事だったが、後半の4失点を招いたのはいただけない結果だ。コンテ監督との差を、見せつけられたと言えるだろう。

(文:小澤祐作)

【了】

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