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PSGにネイマールも恨み節。ドルトムントに敗戦で溢れ出るネガティブ報道、繰り返した4年前の過ちとは【欧州CL】

チャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の1stレグで、パリ・サンジェルマンはボルシア・ドルトムントに1-2で敗れた。試合翌日の現地メディアはネガティブ報道てんこもりで、試合後にFWネイマールがチームに対して不満を漏らすなど、散々だ。そして、思い起こすのは4年前の記憶。PSGはまたしても同じ過ちを繰り返した。(文:小川由紀子【フランス】)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

現地メディアはネガティブ報道連発

パリ・サンジェルマン
【写真:Getty Images】

 2月18日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の1stレグで、パリ・サンジェルマン(PSG)はボルシア・ドルトムントに1-2で敗れた。

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 翌日の現地メディアは

『背水の陣』
『イエロー・フィーバー(黄熱)にやられた』
『ハーランドにノックダウンされた』

 などなど、ネガティブな報道がてんこもりである。

 統計上、1stレグを1-2で落としたチームが次ラウンドに勝ち抜ける可能性は、50%ほどらしい。昨年は、『100%で勝ち抜け』られるはずだったのにマンチェスター・ユナイテッドに逆転負けしたから、確率などあってないようなものだが。

 焦点となっているのはトーマス・トゥヘル監督の采配だ。試合前にメンバーが発表された時点でマウロ・イカルディがベンチだったから、『ファンタスティック・フォー』を採用しないことは決定的だったが、トゥヘル監督が送り出したのは、3バックの3-4-3。今季これまで、見たこともない布陣だった。

 トゥヘル監督は、「4-4-2でやれないことはない。しかしネイマールや(チアゴ・)シウバら、(負傷明けで)リズムが不十分な選手が数人いる。このシステムは、全員が持てる力を全力で出せてこそ機能するが、今日はその状態にない。なので試すことははばかられる」と、試合前にRMCスポーツのマイクに語った。

 その意図は理解できる。負傷していたチアゴ・シウバとマルキーニョスは直前のリーグ戦で実戦に復帰したばかり。プレスネル・キンペンベも腿に不安を抱えていた。

 4-4-2は、事実上は4-2-4であり、中盤の2人への負担が大きい。超ハイペースなドルトムントの攻撃陣、加えてエムレ・ジャンやアクセル・ヴィツェルのような骨太なミッドフィルダーに対応するには、その状態では心もとない感じではある。しかもコンディションが万全でない選手が多く、個々のマイナス部分を補うために最適だとトゥヘル監督が判断したのが、ネイマール、ムバッペ、アンヘル・ディ・マリアをトップに据えた3-4-3だった。

 ただ、このシステムを採用したことで、相手にとっては守りやすかった。PSGの攻撃はマルコ・ヴェラッティからのネイマールへのパスが肝、というのは明らかであるからケアしやすい。チャンスメイクを焦るネイマールが下がれば下がるほどゴールまでの距離は遠くなり、数的有利な状態を作ってボールを奪える。仮にネイマールがキープできても、パスの出しどころはキリアン・ムバッペに限定できるから、これまた守りやすい。

『ファンタスティック・フォー』の強みは、攻撃手の頭数が多いだけでなく、ゴール前で仕事をするイカルディが加わることで、攻撃オプションが多彩になることにある。そしてこの4人の共存は、彼ら自身が希望し、懐疑的だったトゥヘル監督を納得させたものだった。

ドルトムントに敗戦で蘇る4年前の記憶

ネイマール
ネイマールも「チームは恐れていた」とPSGに恨み節【写真:Getty Images】

 ネイマールは2月1日のリーグ戦(第22節・モンペリエ戦)で肋骨を痛めて以来、この試合が初の実戦だったから、確かにいつもよりキレはなかった。にもかかわらず、ドルトムント戦でのシステムは、ネイマールが走り回らなければ成り立たないものだったから、その影響はさらにふくらんだ。

(ちなみに試合後ネイマールは、「自分は(欠場していた)試合にも出られる状態だったが、決めたのはクラブ、メディカルスタッフ。さんざん話し合った。自分はプレーしたかったし調子も良かった。でもチームは恐れていた。それで結局ツケは自分にまわってきた」と恨み節だった)。

 攻撃面だけでなく、12月から継続して結果を出している4-4-2のフォーメーションには、選手達も慣れて、オートマチズムにも自信が培われていた。ドルトムント戦では、守備エリアに人数はいても、どの状態になったら誰がどこへ入る、といった点が曖昧で、ひとりひとりが自分がどこに動いたらいいか、100%理解できていないままプレーしている感じだった。

 こういう場合、気力と体力でなんとかカバーできるのは60分までが常で、案の定、69分にアーリング・ハーランドにゴールを割られた。75分にムバッペのパスからネイマールが同点としたが、ハーランドがすぐさま、胸のすくようなボレーシュートを突き刺し、2-1でドルトムントが勝利した。

 このとき、4年前の記憶が蘇った。2015/16シーズンのCL準々決勝、マンチェスター・シティ戦だ。

 1stレグはホームで2-2と引き分けていた。敵陣での2ndレグ、ダビド・ルイスとブレーズ・マテュイディが出場停止、マルコ・ヴェラッティが負傷欠場と、3人のキープレイヤーを欠いた状況で当時のロラン・ブラン監督は、突如、3-5-2という“奇策”に打ってでた。

 実戦では一度も試したことのないこのシステムを、ブラン監督はシティ戦の2日前に練習し、手応えを得たため本戦でも採用したと話したが、試合後、主砲のズラタン・イブラヒモビッチは「今日のシステムはこれまで一度も実戦でやったことがないものだった」と不満げに話し、主将のチアゴ・シウバも「この作戦でいく、と聞かされたのは試合当日の午後だった」と明かしたのだった。そのとき主力の数人は「いつもの慣れたシステムでプレーすべきだ」と進言さえしたというが、結局ブランはこの奇策を押し切り、0-1で敗れた。

 このシステムの狙いは、中央のディフェンスを固めて相手の司令塔ケビン・デ・ブライネを封じることにあったが、まんまと彼に決勝点を奪われた。もっとも、実際に得点されたのは、チアゴ・モッタが負傷して退場したために4バックに戻したあとの出来事だったのだが、慣れないシステムでリズムに乗れなかった前半戦のツケは、最後まで取り払うことはできなかった。

PSGにつきまとう2つの問題点

『敵を警戒して自分のフォームを崩すと、勝運を逃す』というギャンブラーの名言をしみじみ実感したものだが、4年後またしても、この言葉を思い返すことになるとは。

 もっともいつものシステムで4、5点奪われていたら、「もっと警戒策をとるべきだった」と叩かれるだろうから、後出し論でしかないのだが、同時にあらためて浮き彫りになったのは、PSGにつきまとう2つの問題点は、なかなかクリアされない、という点だ。

 ひとつは、「絶対に勝たなければならない」というプレッシャーが絶大なあまり、萎縮していつもの伸び伸びしたパフォーマンスが出せないこと。過去3年、ラウンド16で敗退している彼らが、今年もここで退くことは許されない。試合開始前、キックオフが待ちきれない、とワクワクした感じの笑顔だったハーランドに対し、いつもは「怖いものなし」的なムバッペの表情もこわばっていた。

 そして2点目は、普段プレーしている場とCL決勝トーナメントのレベルのギャップの大きさだ。リーグアンの対戦も、相手は「失うものはない」気合で挑んでくるから、決して生易しい、というわけではないが、技術的、戦術的な点では大きく異なり、ゆえに勝ち方が違う。

 試合後T・シウバは、この敗戦は、システムの変更とは関係ないと強調し、「ホームでは僕らはものすごく強い。だから心配はしていない。自分たちが勝ち抜けられると確信している」と話した。

 この発言に対して「心配なのはオマエだよ!」というコメントが多数ついていたのは笑えたが、アウェイゴールを1点でもとれたことは大きい。

 2ndレグは、要のマルコ・ヴェラッティと、トマ・ムニエが累積で出場停止という痛すぎるハンディもあるが、PSGがスカッと快勝して、メディアやファンを見返すか、翌日の紙面が「ハーランド礼賛」に溢れるのか。3月11日の2ndレグはお楽しみだ。

(文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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