なでしこジャパンの致命的弱点とは? 米国戦惨敗での3連敗は設計図なきチーム作りの災禍

なでしこジャパン(日本女子代表)は現地11日、シービリーブスカップ2020の最終戦でアメリカ女子代表に1-3の敗戦を喫した。大会3連敗で4ヶ国中最下位という結果に終わり、東京五輪まであと4ヶ月というタイミングで厳しい現実を突きつけられることに。なぜ同じようなミスを繰り返し、課題を克服できていないのかを読み解く。(文:舩木渉)

2020年03月13日(Fri)9時00分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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選手たちもチームの課題を認識

なでしこジャパン
【写真:Getty Images】

 終わってみれば3連敗、さらに全ての試合で同じような失点を繰り返して4ヶ国中の最下位。東京五輪開幕を約4ヶ月後に控え、この現実に目を背けることはできない。

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 現地11日に行われたシービリーブスカップ2020の最終戦、なでしこジャパン(日本女子代表)は2大会連続FIFA女子ワールドカップ女王のアメリカ女子代表に1-3で敗れた。ボール支配率やシュート数では日本が上回ったものの、アメリカは決定機を確実にゴールに変えた。試合の主導権も、アメリカに握られていた。

 初戦で対戦したスペインや、第2戦の相手だったイングランドと同じく、アメリカもなでしこジャパンが抱える構造的欠陥を見逃してはくれなかった。長距離移動込みの中2日で連戦が続き、修正にかける時間がなかったとはいえ、高倉麻子監督は致命的な弱点を克服するための処方箋を提示できていない。

 3日前のイングランド戦を終えて、GK池田咲紀子はテレビインタビューで以下のように語った。

「2試合連続で自分たちのところから失点してしまっているので、そこは個人だけの責任では全くなくて、チームとしてそういうミスをなくしていくというのが、絶対やってはいけないところでミスが起こっているので、そこを全体でどういう風になくしていくかは話していかなければいけないですし、そういうところが勝負の分かれ目になると思うので、そこはGKとしてもすごく反省しなければいけない部分だなと思いました」

 この発言は、低い位置からのビルドアップでミスが起こって失点しがちな現状についてのもの。さらに相手の守備に対して、自分たちがどう立ち回ることができたかの分析につながっていく。チームを最後方から見渡しているGKとして、池田は極めて冷静に現状を把握していた。

「相手の立ち位置が、(選手同士の)中間のところに立たれて、それをどういう風にディフェンスラインを中心に消していくかが、やりながら消したり、消せなかったりというのが最後まで掴みきれなかったというのが1つあって、そこでちょっと迷いが出たかなというので、後手になってしまった部分が大きかったかなと思います」

早々に失点。アメリカもエンジン全開

 スペイン戦でもイングランド戦でも、ディフェンスラインと中盤の間での横パスやバックパスを狙われて失点していた。相手のプレッシャーを受けながらも自陣から丁寧に組み立てるうえで、パスの出し手と受け手の認識のズレや、パスそのもののミス、受け手のコントロールミスは大きなリスクになる。

 3失点を喫したスペイン戦では組織としての意識が統一されておらず、「やってはいけないところで」のミスが頻発して失点につながり、イングランド戦でも似たようなミスが起こった。つまり相手は日本のビルドアップに弱点を見出し、徹底的に狙いを定めてきていたのだ。

 当然、アメリカも前線から積極的にプレッシャーをかけてきた。そして試合開始早々の7分に、ミーガン・ラピノーの直接フリーキックでアメリカが先制点を奪う。このゴールのきっかけは、田中美南のボールロストにあった。時を戻そう。

 4分、アメリカのスローインの流れから自陣中央の低めの位置でこぼれ球を拾った田中は、自ら前に運ぼうとしてラピノーに後ろから突かれ、リンジー・ホーランにボールを奪われてしまう。その奪われた場所が非常に悪かったため、田中はとっさに失点のリスクとイエローカードのリスクを天秤にかけて、ホーランを後ろから引き倒した。中央を一気に破られてゴール前に侵入されるより、イエローカード覚悟でフリーキックを与える方を選んだのだ。

 もちろんフリーキックの方が直接決められる可能性は低いが、ファウルをしなければならない位置でのボールロストは避けなければならない。ワンタッチで近くの選手にパスをする選択肢がありながら、田中はそれを選ばずに自ら運ぼうとした。状況や流れに応じた周りの選手の位置取りも含め、「絶対やってはいけないところでミスが起こっている」現状を分析し、チームとしてプレーの判断基準を共有できていないように見えてしまった。

2失点目の原因は「ミス」だけでなく…

ミーガン・ラピノー
【写真:Getty Images】

 なでしこジャパンの最も大きな課題が見えたのは、やはり26分の2失点目の場面だ。両センターバックがペナルティエリアの左右に大きく開き、両サイドバックを高い位置に上げつつ、GKからのビルドアップを試みた。

 しかし、アメリカはこの形に対してしっかりと準備してきていた。まず1トップのクリステン・プレスが中間ポジションに立って両センターバックとセントラルMFへのパスコースをけん制する。そしてインサイドハーフのサマンサ・メウィスは下がり目のセントラルMF三浦成美にマンツーマンでつき、GK山下杏也加からのパスを受けられないよう蓋をしていた。

 すると山下から見て、残されたパスコースは両サイドバックということになるが、左の三宅史織には相手右ウィングのトビン・ヒースがぴったりとついていた。そのため背番号18の守護神は、浮き球のパスで右サイドバックの土光真代を狙う。しかし、狙ったほどボールが上がらず、土光を背中に置いてけん制していた相手左ウィングのラピノーにあっさりカットされてしまった。

 ピンクの髪でひときわ目立つアメリカ女子サッカー界のアイコンは、すぐさま隣でフリーの味方にボールを渡す。そして最後はプレスが、前に出ていた山下の頭を越すループシュートでゴールネットを揺らした。アメリカ側の視点に立てば、これほどまでに狙いが完璧にハマり、簡単にゴールを奪えたことに驚いたのではないだろうか。

 結果的にコーナーキックから3失点目を喫しているが、後半は日本がボールを握って攻める時間帯が長くなった。ただ、これは相手のペースが落ちて前線からのプレッシャーが弱くなったからできたことであって、なでしこジャパンの真の実力ではない。後半から出場した岩渕真奈が一矢報いたものの、試合を通してみればアメリカの方が何枚も上手だった。

 即興性の高い近距離のコンビネーションや細かいパスをつないでの崩しがあってもいい。とはいえ、そういったアイディアを相手ゴール前で披露するには、まずボールをそこまで運ばなければならないのだ。なでしこジャパン最大の課題は、ビルドアップの局面を安定させるための立ち位置や方向性を明確に定められていないことにある。

 キャプテンの熊谷紗希はアメリカ戦後のテレビインタビューで「やっぱり自分たちが失ったところから、今大会ほぼほぼやられているので、そういったところをもう1つ、チームとして、回し方、ボールの持ち方を考えなければいけないところもあると思いますし、失った後どれだけ後ろが我慢できるかというところも大きな課題になるかなと思うので、次に向けて、また出直してというか、しっかりこの課題を修正できるようにしていきたいと思います」とビルドアップ面の課題を克服できていない現状を悔やんだ。

指揮官は相変わらず具体性に欠き…

高倉麻子
【写真:Getty Images】

 今大会で繰り返した失点を、単なる「やってはいけないところでのミス」で片付けてはならない。攻撃において崩しの局面はある程度ピッチ上の選手たちの組み合わせや即興性に依存する部分があっても、そこまでに至るチーム全体の設計図は監督並びにスタッフが提示すべきものだ。

 特に代表チームは招集のたびにメンバーが入れ替わることもあって、攻撃の組み立てにおける立ち位置の取り方やパスの循環の作り方などの組織の根幹にあたる部分は監督が提示したプランを基本に調整していく方が望ましい。圧倒的なフィード力やインテリジェンスを備えた1人のスーパースターに頼れるなら話は別だが、そうでなければ選手同士の話し合いだけで全てを解決できるものではない。

 高倉麻子監督はアメリカ戦後のテレビインタビューの中で、大会を通じたミスの多さの原因について「選手たち自身が考えて選択している中で、技術的なミス、判断ミスが起きているので、その辺はシーズンが始まってくれば集中度が上がってくるかなという部分もありますので、ポジティブに考えながら次に進んでいきたいと思います」と語った。

 ここでインタビュアーがさらに切り込んだ。「選択の部分、とっさの判断力だとか対応力はどう具体的に修正していく必要があるのでしょうか?」と。

 高倉監督は空を仰ぎ、言葉に詰まった。

「具体的に……。本当にゲームの中での集中度、それだけが足りないと思います」

 やはり原因は「集中度」にあるのか。確かに90分間ずっと集中を保ち続けることは困難だが、ビルドアップに関しては相手の出方をしっかりと分析・予測したうえで、より具体的に立ち位置やパスコースの作り方、出し手と受け手の動きのタイミングを設計することができる。

 今大会、GKやディフェンスラインからのビルドアップを試みる際に相手の立ち位置にハメられて、安易な横パスやバックパスを奪われてピンチを迎える場面が多かった。それは失点の場面に限ったことではない。

 そうならないために、あるいは同じ過ちを繰り返さないためにもチーム全員に明確な設計図やプレーの判断基準を与えてあげることが必要だ。すると「こういう状況なら次はこう、ダメならどうする」という優先順位や微調整、プランBを自然に考えるような思考のパターンを植え付けることもできるだろう。今のなでしこジャパンは、細部にまでわたってビルドアップの設計を練り上げられていないのは間違いない。

 3連敗に終わったシービリーブスカップでは、アジアのチームとの戦いでは見えにくかった巨大な課題を欧米の強豪国とのぶつかり合いの中で突きつけられた。過密日程となる東京五輪のシミュレーションとしても貴重な機会だったが、それ以前にチームとして練り上げておかなければならない部分がたくさんある。東京五輪まで4ヶ月、今こそ高倉監督の指導者としての力量が問われる時だ。

(文:舩木渉)

【了】

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