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Jリーグ 4年前

京都サンガ「1-13」の真実。J2最終節の衝撃の惨敗。その真実を指揮官に迫る【中田一三という男・前編】

昨季のJ2 最終節で生まれた衝撃的なスコア、1-13。この事件の当事者の一人である中田一三に「1-13」の真実を迫った3/6発売の『フットボール批評issue27』から一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(取材・文:海江田哲朗)

text by 海江田哲朗 photo by Koichi Takamori/Kaz Photography

「こんな発信を地域社会にしているなら潰したほうがマシでしょ?」

中田一三
【写真:高森晧一/Kaz Photography】

 2019年11月24日、J2最終節。自動昇格、J1参入プレーオフ出場圏、自動降格と順位が確定するなか、にわかには信じがたいスコアに目が点になった。

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 場所は、三協フロンテア柏スタジアム。すでにJ1昇格を決めていた柏レイソルが、7位でプレーオフ出場の可能性があった京都サンガF.C.を13対1で打ち負かしていた。

 柏はJリーグ最多得点、最多得失点差の記録を大幅に更新し、8ゴールを決めたオルンガも個人の最多得点記録を樹立。まさに記録尽くめのゲームで、京都からすれば歴史に深く刻まれる大敗だ。

 試合後、動画サイトに上がった、ゴール裏の京都サポーターが撮影したとおぼしき映像も刺激が強かった。トラメガを持った中田一三監督は「やってないヤツはいない。ここに出てきてないヤツで、やってないヤツがいるんだ。わかってるやろ、みんな!?」と叫んだ。

 中田一三とはいかなる人物なのか―。

 SNSによる発信が盛んで、積極的に仕掛けていく手法は監督就任時から物議を醸した。

 この年、京都は掛け値なしにすばらしいサッカーを見せていた。巧みに組織化されたなかで個人のキャラクターが立ち、戦い方に一本の太い芯の通ったチーム。シーズンの折り返し地点を過ぎた頃には、一時首位に立ったほどだ。

 東京ヴェルディを定点観測することでリーグ全体に目を届かせる私は、ホームで1-4、アウェーで0-4とこてんこてんにされたゲームをよく記憶している。エキセントリックな面があったとしても、凡百の指導者に成せる仕事とは思えない。

風変わりな指揮官とピッチで展開される魅力的なサッカー、そして壮絶なラストシーン。それらがなかなかひとつの像を結ばなかった。

待ち合わせは、京都駅と直結するホテルグランヴィア京都のラウンジ。まずは京都の監督に就任した経緯について訊ねた。

「3年前ですかね。73年会という集まりがあり、当時京都の強化部長だった小島(卓)と知り合ったのがきっかけです。僕が理事長を務め、指揮を執るFC.ISESHIMAと何度か練習試合を行い、そこで見せたサッカーにかなりインパクトがあったと聞かされました」

2018年11月18日、京都は小島強化部長の退任を発表。中田の仕事を評価し、監督就任のオファーを出した強化の責任者が職を離れ、話は立ち消えになるかと思われたが、残った強化スタッフの後押しもあって伊藤雅章社長と面談を行うことになった。

 その年、京都は残留争いに巻き込まれ、最終順位は史上最低の19位。面談の場で、中田は京都のクラブとしての在り方、地域やサポーターとの関係づくりについて、思いのたけを語る。

「西京極に何度か足を運び、そこにあった光景について自分の考えを話しました。観戦マナーやクラブの対応の問題。特にサポーターとクラブとのやり取りは悲惨な状況で、相手に対する中傷が飛び交う状況です。両者の関係づくりが適正ではなく、非常に不健全なものとして映った。極端な言い方をすれば、Jリーグの理念を何も実現できていないじゃないかという怒りもありました。このクラブなら地域に必要ないんじゃないですか? こんな発信を地域社会にしているなら潰したほうがマシでしょ? 真っ向から向き合わないと何も変えられませんよ、と社長に言いましたね」

その点について、クラブも問題意識は持っていたのだろう。率直な意見が経営者の琴線に触れたのか、同年12月6日、京都は中田の監督就任を発表する。

(取材・文:海江田哲朗)

▽中田一三(なかた・いちぞう)
1973年4月19日、三重県伊賀市出身。四日市中央工業では中西永輔、小倉隆史らとともに「四中工三羽烏」と呼ばれ3年時に全国制覇を成し遂げる。卒業後はJリーグ入りを果たすも12 年間のプロ生活はケガとの戦いだった。引退後は地元三重で指導者として歩み始め、13年からFC.ISE-SHIMAの監督や総監督、アドバイザーを歴任。18年に京都サンガで突如としてJリーグ監督を任されると、夏場には一時首位に立つなど前年19 位と低迷したチームの建て直しに成功。昨季の最終節はJ 1昇格プレーオフ進出が懸かる柏との大一番だったが終わってみれば1 – 13という衝撃的なスコアで大敗した。シーズン終了直前に契約満了により退任。

FootballCritic28

『フットボール批評issue27』


定価:本体1500円+税

<書籍概要>
プレーモデルから経営哲学、はたまた人間形成まで、ありとあらゆる“洋物”のフットボールメソッドが溢れ返るここ日本に、独自のフットボール論が醸成されていないと言えば実はそうでもない。
例えば27年目を迎えるJリーグ自体、“完熟”の域には達していないまでも、“成熟”の二文字がチラつくレベルに昇華している。
“洋物”への過度な依存は、“和物”の金言をフォーカスする作業を怠っているからにすぎない。
フロント、プレーヤー、無論、サポーターにも一家言が備わりつつある時代になっていることを思えば、舶来のメソッドばかりを追いかけるのもそろそろどうかという気がしている。
経営、バンディエラ、キャリアメーク、データ、サポーターなどさまざなま分野に、それこそ秀でた国産のフットボール論は転がっている。
弊誌が見初めた“Jのインフルエンサー”による至言に、まずは耳を傾けてはいかがか。

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【了】

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