バルセロナがMSNと引き換えに失ったものとは? シャビがイニエスタが抜け、メッシ1人で寂しそうに…【バルサの20年史(5)】

世界のフットボールシーンは、この約20年で大きく変わったと言える。選手の契約と移籍のあり方が変わり、名門クラブも栄枯盛衰を経験している。今回は120年を超える歴史を持つバルセロナの現代史を複数回に渡って辿っていきたい。(文:西部謙司)

2020年04月14日(Tue)10時00分配信

シリーズ:バルサの20年史
text by 西部謙司 photo Getty Images
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ポスト・ペップの悩み

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【写真:Getty Images】

 2013/14シーズン、ヘラルド・マルティーノ監督を迎え、ネイマールを獲得。しかし、6シーズンぶりに主要タイトルなしという結果にマルティーノは解任となった。

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 マルティーノ監督はリオネル・メッシを右のハーフスペース、アンドレス・イニエスタを左のハーフスペースに置いた変則ゼロトップを採用していた。メッシへの負担軽減を狙ったのだろうが、かえって中途半端な感は否めなかった。

 メッシへの依存はやむをえない。しかし、メッシを生かすために周辺への負荷がかかるので、同じシステムを使い続けると必ず軋みが出てくる。ジョゼップ・グアルディオラ監督時代から始まる、スーパースターを持ったがゆえの悩みをどの監督も抱えていた。

 14/15、ルイス・エンリケが新監督に就任。このシーズンにはルイス・スアレスがリバプールから加入した。メッシとネイマールの共存ですら危惧する声があった中、スアレスまで加えていかにバランスをとるかが注目されたが、ルイス・エンリケ監督の回答はシンプルだった。メッシ、スアレス、ネイマールを前線に並べた。

 MSNは3人で81ゴールを叩き出す。これはリーグ戦での全得点の約74%を占めた。当初はメッシの偽9番を継続し、スアレスを右へ配置したこともあったが、すぐにスアレスを本来のCFに起用してメッシを右ウイングに置いた。偽9番から偽7番への移動である。

 MSNは猛威をふるい、リーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイ、UEFAチャンピオンズリーグの主要タイトルをすべて獲得している。ペップ時代に勝るとも劣らない強さだ。だが、バルセロナが積み上げてきた伝統からはやや逸脱していた。

MSN結成の代償

 強いバルサが戻ってきた14/15シーズン、シャビ・エルナンデスがシーズン終了とともに退団している。17/18にはアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸へ移籍。

 このころのカートゥンでこんなものがあった――シャビ、イニエスタ、メッシの3人が楽しそうにパスを回している。やがてシャビが消えて、メッシとイニエスタだけになった。それでもまだ楽しそうにパスを交わしていた。ところが、イニエスタも消えてしまい、メッシが1人で寂しそうにしている……。

 MSNは確かに強力だった。ただ、それは3人の個々の突破力と得点力によるもので、いってしまえばそれではレアル・マドリードと変わらない。ライバルが推し進めてきた大艦巨砲主義そのものといえる。

 MSNの代償として、バルサはハイプレスとポゼッションを低下させた。基本的なところはグアルディオラもルイス・エンリケも共通である。ハイプレスとポゼッションはバルサ・スタイルの軸であり、ルイス・エンリケ監督時代で極端に変化したわけではない。ただ、ペップの時代ほどポゼッションもハイプレスも重視しなくなっていた。

 メッシ、スアレス、ネイマールの3人でハイプレスは無理だった。いちおうやってはいるが効果はさほど期待できない。むしろ、相手に攻めさせるのは構わなかった。後退し、陣形が間延びしても、打ち合いになればMSNがいるかぎり必ず勝てるからだ。相手はこの3人を1対1で抑えるのは無理なので、数的優位は崩されてしまう。そこで別の1対1で勝負をかければ一丁上がりなのだ。強烈な3トップを得たチームの戦術として、ルイス・エンリケ監督の採った策は合理的だった。

 しかし、これはMSNがいなければ使えない手でもある。バルサがそれまで積み上げてきた戦い方を全否定したわけではないが、重要な部分は抜け落ちている。シャビ、イニエスタ、メッシのパスワークも特別な3人がいてこそではあったが、それは育成から積み上げてきたもので、外様のスターを並べて何とかするのではレアル・マドリードと変わらない。一時的にメッシ頼みからは脱却したものの、MSN頼みに変換しただけだった。

メッシの引力

 15/16シーズンはリーガとコパ・デル・レイを連覇。CLは準決勝でアトレティコ・マドリードに敗れるが、MSNは健在でこのシーズンのバルサも強かった。

 しかし16/17はリーガをレアル・マドリードにさらわれ、CLも準々決勝でユベントスに2試合合計0-3の完敗を喫してしまう。コパ・デル・レイは3連覇を達成したが、ルイス・エンリケ監督は任期満了で退任した。

 CLのラウンド16では奇跡的な大逆転を成し遂げている。パリ・サンジェルマンとの第1戦を0-4で落としたが、カンプ・ノウでの第2戦を6-1で勝利した。理詰めのバルサにしては珍しい大逆転である。

 かつてバイエルン・ミュンヘンに0-7で大敗したように、負けるときは理詰めゆえに歯止めが利かない。レアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドのように、理由もなく試合をひっくり返すパワーはないクラブのはずだった。この大逆転が可能だったのは、ある意味でバルサがバルサらしくなっていたからかもしれない。実際、カンプ・ノウでの強引な猛攻はバルサらしくなかった。

 MSNも変質している。当初は3人の守備負担は平等だった。ところが、しだいにメッシへの依存が大きくなっていく。偽7番を機能させるために、SBは右サイドの幅をとるべく長距離の上下動を強いられ、右インテリオールのイヴァン・ラキティッチはSBのカバーのために攻撃参加が減り、ネイマールは引いたときの数合わせでMFのラインに入らなければならなかった。

 スアレス、ネイマールですら、ゴール前ではメッシに遠慮している。時間の経過とともにそうなるのだ。普段からメッシの才能を見せつけられていれば、自然とヒエラルキーができてしまう。そのリスペクトがあったからMSNは機能していたのだが、結局のところメッシの巨大な引力に周囲のエネルギーが吸い取られてしまう現象は何ら変わりなかった。

 シーズン終了後、ネイマールはパリSGへ移籍する。カタールの国策的な移籍ではあったが、バルサにいるかぎりネイマールが“メッシ”になれないのも明らかだった。

(文:西部謙司)

【了】

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