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クライフは「偽9番」をどう機能させたのか? バルセロナ、ドリームチームの戦術【ファルソ・ヌエベの系譜(2)】

クライフ、サッキ、グアルディオラ、ジダン…強く美しい戦術はどのような系譜をたどり、いま、まさに究極の戦術が生まれようとしているのか? トータルフットボールの進化という大河の源流と革新を綴る濃密な戦術ガイド本『サッカー戦術クロニクル ゼロ』から一部抜粋して公開する。(文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

クライフが生み出した「偽9番」

ヨハン・クライフ
【写真:Getty Images】

 クライフはバルセロナの監督に就任すると、ミカエル・ラウドルップやホセ・マリ・バケーロを「偽9番」として機能させている。これは、たまたまそれに見合ったプレーヤーがいたという理由ではなく、戦術的な理由でそのポジションに据えている。逆に、フリオ・サリナスや ガリー・リネカーのような典型的な点取り屋タイプをウイングに起用しているのだ。

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 クライフ監督のアイデアは、CFを前向きにプレーさせることと、CFが引いたことで空けたスペースを他のプレーヤーに使わせることにあった。

 戦術的なポイントは、両ウイングをできるだけ高い位置に張らせること。ボールをキープして押し込む過程で、ウイングプレーヤーはタッチライン際になるべく高いポジションをとる。そうすることで対戦相手のディフェンスラインを規定できるからだ。

 例えば、ウイングが高いポジションをとらずにCFが引いた場合、つまり3トップが後退してしまえば、相手はディフェンスラインを上げてしまえば事足りる。ところが、ウイングが高い位置をキープした場合、相手ディフェンスはCFが引いてもラインを上げられない。SBが残って、CBだけが前に出れば中央はガラ空きになってしまう。

 つまり、引いたCFがフリーになれる。もし、4バックのCBが引いていくCFをマークし続ければ、中央を守るDFは1人になる。そうなると、1人になったCBは両SBとの間のスペースを1人でカバーしなければならない。明らかにカバーするスペースが大きくなりすぎる。だから、通常はCFが引いても中央のCB2人は動かない。

 つまり、ウイングが高いポジションをキープすることで、相手のディフェンスラインの位置を固定できる。別の言い方をすると、4バックのCB2人は誰もいないスペースを守っていることになる。

「好きなようにやればいい」。クライフが求めた才覚

 2人のウイングで4人のディフェンスラインを釘付けし、引いていくCFのぶん数的優位がラインの手前に発生する。また、ディフェンスラインが釘付けにされているので、その手前のスペースも確保できる。数的優位を生かしてより確実にボールを保持できるわけだ。

 CBのマークから逃れたCFは、フリーでパスを受けて前向きにプレーできる機会を得やすくなる。そのときは、

「好きなようにやればいい」(クライフ)

 ドリブルでシュートまで持っていってもいいし、味方と連係して崩しの軸になってもいい。好きなようにやれるだけの才覚を存分に発揮することを望んでいるので、この位置でそれが出来るプレーヤーを使っている。ラウドルップはうってつけのアタッカーだった。現役時代のクライフと似た資質を持ったプレーヤーである。

 引いていくCFに相手のCBがついて来た場合は、前記のとおり中央のスペースが空くので、そこをウイングが斜めに入り込む、あるいはMFが侵入する。

 クライフ監督が率いたバルセロナでは、最後尾のロナルド・クーマンからのロングパスでこのスペースを急襲するのが1つのパターンとなっていた。ウイングに点取り屋を置いていたのは、CFが空けたスペースに入り込ませるためなのだ。

(文:西部謙司)

9784862554130

『サッカー戦術クロニクル ゼロ』


定価:本体¥1500+税

<書籍概要>
単に選手のポジションを交換するからトータルフットボールなのではなく、パスワークのスタイルを貫いた結果、ポジション互換性が必要になってくる。つまり、パスワークこそがトータルフットボールの源ということがみえてきます。(中略) パスワークとプレッシング。この2つをトータルフットボールの成立要件と仮定して、過去から現在に、そして現在から未来へ、トータルフットボールをキーワードに戦術史を紐解いていきたいと思います。 (本書「プロローグ」より抜粋)

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【了】

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