モウリーニョとシメオネはグアルディオラやクロップと何が違うのか?“アンチ”と評される所以【アンチ・フットボールの歴史・前編】

常に進化し続けるサッカー界の「戦術」。世界的サッカー史家がサッカーの進化を読み解く『戦術の教科書』(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之著/2017年刊)より、「アンチ・フットボール」の歴史に迫った部分を一部抜粋して前後編で公開。今回は前編。(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

2020年05月16日(Sat)10時10分配信

text by ジョナサン・ウィルソン photo Getty Images
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時代の潮流に抗う2人の監督

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【写真:Getty Images】

 個と組織。守備と攻撃。正統派のアプローチと、異端のアプローチ。

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 フットボール界を動かしているのは、多種多様なアイディアであり、アイデンティティーである。その多様性こそが、戦術を進化させる原動力となっている。

 今シーズン(編注:本書は2017年刊)に限って言えば、2つの大きなトレンドが主流を占めている。ペップ・グアルディオラが牽引する、「ポゼッション」を突き詰めようとする流れと、クロップやトーマス・トゥヘルなどが追求する「プレッシング」で活路を切り開こうとする発想だ。

 これら2つのアプローチは、守備的か攻撃的かという文脈で捉えられているが、実態は微妙に異なる。ボールをつなぐ、ボールを奪うというスタンスの違いはあるにせよ、いずれも自らアクションを起こし、ゲームの主導権を握っていこうとする点では共通している。

 またペップなどは、ボール・ポゼッションの原理主義者でありながら、バルセロナ伝統のプレッシングの伝導者でもあるという、相矛盾する顔を同時に持ち合わせてもいる。彼がフットボールの戦術論において、常に脚光を浴びる所以だ。

 だが、このような時代の潮流に抗う監督が2人だけいる。

 ジョゼ・モウリーニョとディエゴ・シメオネである。

 モウリーニョに関しては、詳述するまでもないだろう。守備ラインを深く引いてカウンターを狙い、リスクを最小化する。時には自陣のゴール前に「バス」を停めることさえ厭わない。モウリーニョは、徹底的にリアリスティックなアプローチで結果を出してきた。ヨーロッパのメガクラブは、必ずしもモウリーニョのアプローチを好まないとしてもである。

 他方のシメオネは、「アンチ・フットボール」と評されるような戦い方を武器に、アトレティコ・マドリーで奇跡を演じてきた。バルセロナとレアル・マドリーを退けてリーガのタイトルを奪い、二度もチャンピオンズリーグのファイナルまで駒を進めたのは、チーム予算や選手の顔ぶれを考えれば、驚異としか言いようがない。

 アトレティコのフットボールの特徴は、厳密な守備のプランとインテンシティの高いプレー、そして献身的なハードワークにある。

 むろんシメオネとて、引いて守ってばかりいるわけではない。アトレティコはリーガを主戦場としている以上、サポーターを喜ばせるためには、適度に攻撃も展開する必要がある。

 しかしリーガの試合でも、シーズンの山場となるビッグゲームや、コパ・デル・レイなどのカップ戦、チャンピオンズリーグの大一番になると、守備的なアプローチは透徹。シメオネが率いるチームは、自陣のゴール周辺をひたすら固め、敵の攻撃の芽を容赦なく摘んだうえで、数少ないチャンスから確実に得点をもぎ取ろうとする。

 また配下の選手たちは、試合を有利に運んでいくためであれば、誰の目にもはっきりとわかるようなファウルをしたり、露骨に時間稼ぎをしたりするのも厭わない。守備的な戦い方とともに、シメオネ配下のアトレティコが「アンチ・フットボール」と評される所以だ。

(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

【後編に続く】

9784862554093


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