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アセンシオ、330日ぶりの華麗な復活劇。レアル・マドリード逆転優勝へのラストピースとなるか

夢のような時間だった。現地18日にラ・リーガ第29節が行われ、レアル・マドリードがバレンシアに3-0で勝利を収めている。この試合の後半途中から出場したマルコ・アセンシオは約11ヶ月ぶりの戦列復帰にして、ファーストタッチでゴールまで決めて見せた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ファーストタッチで復活ゴール

マルコ・アセンシオ
【写真:Getty Images】

 ラ・リーガ逆転優勝とチャンピオンズリーグ(CL)制覇を目指すレアル・マドリードのスカッドに、頼もしい男が帰ってきた。

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 2019年7月24日、プレシーズンに行われたインターナショナルチャンピオンズカップ(ICC)のアーセナル戦で負傷して以来の戦線復帰。マルコ・アセンシオは左ひざの前十字靭帯断裂および外側半月板損傷という大怪我を乗り越えて、約1年ぶりの試合出場を果たした。

 もともとは今季全休になると見られていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって3ヶ月ほど公式戦開催が中断されたため、シーズン中の復帰が実現した。マドリーの公式YouTubeで公開されているトレーニング動画などでも元気にボールを追いかける姿が確認できていたため、ちょうどカムバックへの期待が高まっていたところだった。

 現地14日に行われたリーグ再開初戦のエイバル戦は、ベンチ入りするも出番なし。続く現地18日のバレンシア戦にもベンチ入りすると、1点リードで迎えた70分過ぎにジネディーヌ・ジダン監督から声がかかった。

 フェデリコ・バルベルデとの交代でタッチラインをまたいだアセンシオは、投入直後に画面越しで試合を見つめていた世界中のファンを驚かせた。74分のことだった。

 右コーナーキックのこぼれ球を拾ったDFフェルラン・メンディが左サイドをえぐり、高速クロスをゴール前に送る。合わせるのは非常に難しそうなボールを、アセンシオの左足が正確に捉えてゴールに流し込んだ。復帰後のファーストタッチで見事に今季初ゴールを決めて見せたのだ。

「本当に戻ってきたかった。何ヶ月もハードワークしてきて、再びプレーできること、ゴールを決めたこと、そして勝利したことを本当に嬉しく思う。とても感情的だし、満足しているよ。この復帰とゴールはたくさんの努力の成果だ。最も重要なのは気持ちよくプレーして勝てたこと、そして終盤戦に向けて準備ができているということだと思う」

 アセンシオは試合後、スペインの中継局『モビスター』のインタビューに対し約11ヶ月ぶりの復帰とゴールの喜びをこのように語った。元の状態に戻れるのかという不安がある中で、小さな希望を信じてリハビリを続けてきただろう。

ジダン監督やベンゼマも絶賛

 仲間たちが元気にピッチを走り回り、不振を乗り越えながら結果を残してきた姿も間近で見ていたはずだ。自分だけが置いていかれる感覚もあったかもしれない。そういった苦しい日々を乗り越えた末に、再びピッチに立ち、ゴールで自らの存在価値を示せたことの喜びは計り知れない。

 ゴールを決めた直後、カメラの方向に走ってポーズをとり、振り返ってチームメイトたちと抱き合うアセンシオには、自然と安堵の表情が浮かんでいた。

 全てから解き放たれたアセンシオは躍動した。86分、カゼミーロが自陣でボールを奪ったところから始まったカウンターの場面では、右サイドを走り、トニ・クロースからのサイドチェンジパスを受ける。

 それを左足アウトサイドのワンタッチで並走していたカリム・ベンゼマに渡すと、背番号9のフランス人ストライカーは最初のコントロールで右足を使ってちょんと浮かせて相手DFを外し、強烈な左足ボレーシュートをゴールネットに突き刺した。

「マルコは本当にうまい。僕は彼のプレーが大好きなんだ。この1ヶ月、ハイレベルなトレーニングをしてきたのを間近で見ていた。彼(の復帰)にはとても満足しているよ」

 お膳立てを受けたベンゼマも『モビスター』のインタビューの中でアセンシオの努力を称賛し、復帰を喜んだ。チームメイトたちも待ち望んだピッチへの帰還だった。

 完璧なカウンターにおいて、アセンシオは繊細な技術も失われていないことを証明した。わずか20分足らずのプレーで1得点1アシストと勝利に直結する結果を残し、改めてクオリティの高さと価値の大きさを印象づけた。

 アセンシオをピッチに送り出したジダン監督も、「彼は何ヶ月かぶりにピッチに立っただけで幸せそうだった。ファーストタッチでゴールを決めたことでクオリティを示し、試合にもよく絡んでいたと思う」と絶賛のパフォーマンスだった。

 公式戦が再開されてからのマドリーの前線のポジション争いは熾烈を極めている。ようやく本調子を取り戻しつつあるエデン・アザールは、ベンゼマと良好な関係を築いてチャンスを量産中だ。若くて勢いのあるヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴも存在感を発揮している。

 逆にガレス・ベイルやハメス・ロドリゲスは出場機会の確保に苦しんでいるが、彼らのプレーも質は高く、必ずしも戦力外というわけではない。負傷離脱中のルカス・バスケスやマリアーノ、ルカ・ヨビッチもいる。

逆転優勝のラストピースになるか

マルコ・アセンシオ
【写真:Getty Images】

 アセンシオはこうした強力なライバルたちに再び挑み、チーム内での立ち位置を確立していかなければならない。

 一方でジダン監督が「非常にうまくいっているチーム全体のことを強調しておきたい。全ての選手が必要になるので、これはとても重要なことだ」と語った通り、非常に厳しい過密日程になる中断明けのラ・リーガにおいて選手層の厚さは大きなアドバンテージになる。アセンシオの復活は、そういう意味でもマドリーにとって喜ばしいものだった。

 マドリーで役員をつとめるレジェンド、エミリオ・ブトラゲーニョ氏も『アス』紙に対し「アセンシオは並外れた選手だ。我々は彼に大きな期待を寄せている。選手にとって最悪なことは怪我で、非常に難しい数ヶ月を過ごしてきただろう。たくさんの精神的な葛藤もあったと思う。今日、彼は再び自分が選手であることを実感し、素晴らしいゴールも決めた。残りの試合でも彼が我々を助けてくれることを願っている」と330日ぶりの帰還を果たした24歳を称えた。

 クラブに関わる人々が皆、アセンシオに期待している。残り9試合、バルセロナとの勝ち点差2ポイントを逆転してリーグ優勝を果たすこと。さらに、8月にポルトガルの首都リスボンで集中開催が決まったCLを制すために、その力が必要になると。

「僕たちには勝利が必要な決勝戦が9つ残っている。僕たちは、まず次のレアル・ソシエダ戦に集中しているよ」

 アセンシオは『アス』紙に対し、あくまで一戦必勝の姿勢で臨むことを強調した。CL出場権獲得を目指すソシエダは今季のラ・リーガで最も勢いのあるチームの1つ。しかも中2日という強行日程で、逆転優勝に向けて侮ってはならない相手だ。

 絶望の淵から舞い戻ったばかりでも、今はそのことばかり喜んでいるわけにはいかない。どん底を経験した人間は、再び立ち上がった時に元の数倍強くなる。ヒーローが真に輝くのはこれからだ。

(文:舩木渉)

【了】

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