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「今度こそは」「この次は」…アーセナルが移籍市場で見る夢。ファンが心惹かれるロマン【アーセナルと青田買いの蜜月 前編】

本日9/7発売のアーセナルを特集した『フットボール批評issue29』から、アーセナルの魅力の一つ「若手の成長を見守ることができる」を考察した山中拓磨氏の「アーセナルと青田買いの蜜月」を、一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:山中拓磨)

text by 山中拓磨 photo by Getty Images

アーセナルのアイデンティティとなった若手の成長

アーセナル
【写真:Getty Images】

 アーセナルというクラブは、どうして人を惹きつけるのか。昨季のリーグ順位は8位に沈み、CLにももう何年も出場していない。それにも関わらず、イングランドでも日本でも、アーセナルの人気は今のところ衰える気配はない。
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 クラブを好きになる理由は人それぞれだろうが、アーセナルの大きな魅力の一つに『若手の成長を見守ることができる』というのがある。古くからチームに在籍し、長所はもちろん、その短所までをも知り尽くした選手が少しずつ成長していき、ついにはトップレベルに辿り着く。

 長い間見守ってきた、家族や友人のようにさえ感じられる選手が苦難の末に成功を収めるところを目撃し、ともに喜ぶことができるのだ。こんな瞬間をファンに味合わせてくれるクラブは多くはないだろう。

 これを可能にしている二本の柱がユース選手の積極的な登用と、青田買いだ。特に青田買いは、まだ外国籍選手がそこまで多くなかった時代にアルセーヌ・ヴェンゲルがいち早くプレミアリーグで導入し、長い間にわたってアーセナルのユニークな特徴であり、アイデンティティとなっていた。

 かつてヴェンゲルは『私の仕事は人の中に眠る美しさを引き出す手助けをすることだ』と語ったが、それは見ている側からしても、非常に美しいプロセスだ。大志を抱いた若者たちがプレミアリーグという大舞台で夢を叶えるため、世界中からノースロンドンに集う。アーセナルで奏でられる、そんなロマンチックなストーリーに我々は心惹かれてしまうのだろう。

 今でも言えることだが、特に一時期のアーセナルは移籍市場が開くたびに、名前も聞いたことのない若者の獲得の噂が紙面に躍るのが風物詩ともなっていた。そのたびにファンは、彼ら一人ひとりの中に将来のスーパースターの姿を思い浮かべる。もちろんその期待は裏切られることも多くあるが、それでも、「今度こそは」「この次は」「あるいは」、と夢を見るのをやめられない。

 本稿では、そんなグーナーたちの夢を乗せてプレーした選手たちのうち、特に印象的なキャリアを送った選手を紹介しつつ、彼らの歩んだ道筋を参考に、アーセナルと、現在クラブに在籍中の若手選手の展望を綴ってみたいと思う。

 あらゆる意味で、アーセナルの青田買いを象徴するような選手がアーロン・ラムジーだ。破格のポテンシャル、怪我による伸び悩み、才能の開花から、悲しいかな、アーセナルからステップアップを果たして去ってしまったという経緯に至るまで。カーディフ・シティから、ヴェンゲル監督直々の説得を受け、すでに合意していたマンチェスター・ユナイテッドのオファーを蹴ってアーセナル移籍を決めた、というアーセナルファンからすれば痛快な経緯でやってきたラムジーだったが、彼のキャリアは平坦なものではなかった。

(文:山中拓磨)

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『フットボール批評issue29』


定価:本体1500円+税

≪書籍概要≫
なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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