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アーセナルの希望の星になるのは? アルテタ指揮下で復活の兆し…屈辱の1年から新時代の幕開けへ【19/20シーズン総括(10)】

新型コロナウイルスという未曾有の脅威によって2度目の夏を迎えることになった、欧州の長い2019/20シーズンがようやく閉幕した。トラブルに見舞われ、新たな様式への適応も求められながら、タイトル獲得や昨季からの巻き返しなど様々な目標を掲げていた各クラブの戦いぶりはどのようなものだったのだろうか。今回はアーセナルの1年を振り返る。(文:編集部)

シリーズ:19/20シーズン総括 text by 編集部 photo by Getty Images

25年ぶりのトップ6陥落。大失敗の1年?

アーセナル
【写真:Getty Images】

 FAカップ優勝とUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得がなければ、大失敗と言える1年だっただろう。開幕当初の期待感はどこへやら…。アーセナルの2019/20シーズンは、希望に満ちたものになるはずだったのである。

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 ウナイ・エメリ体制で2シーズン目を迎え、夏の移籍市場ではチームの世代交代が図られた。ペトル・チェフが現役を引退し、アーロン・ラムジーやヘンリク・ムヒタリアン、アレックス・イウォビ、ダニー・ウェルベック、ナチョ・モンレアル、シュテファン・リヒトシュタイナー、ローラン・コシエルニー、ダビド・オスピナ、カール・ジェンキンソンといった「ヴェンゲル時代」を知る古株たちが続々と退団。

 一方でダビド・ルイスやキーラン・ティアニー、ダニ・セバージョスといった即戦力級を迎え、ニコラ・ぺぺはリールからクラブ史上最高額の移籍金で加入した。エメリ色の強くなった新チームはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得が現実的な目標だったはずだ。

 しかし、予想通りに進まないのがフットボールの難しいところ。リーグ戦開幕から2連勝したところまでは良かったが、それからはドローや負けより勝利の方が珍しいくらいに。エメリ監督が解任される直前までのリーグ戦13試合で4勝6分3敗という有様だった。

 とりわけ昨年10月21日に行われたシェフィールド・ユナイテッド戦に敗れてからは完全に自信を失っていた。直後にELのヴィトーリア・ギマランイス戦に勝利したものの、解任まで公式戦7試合勝利なし。選手たちからエメリ監督に対する信頼は消滅し、チームは空中分解していった。

 その後、アシスタントコーチを務めていたクラブOBのフレドリック・リュングベリによる暫定指揮を挟み、新監督として招へいされたのはミケル・アルテタだった。アーセナルのフロント陣はかつてキャプテンも担ったレジェンドに再建を託すことにしたのである。

 アルテタは現役引退後、マンチェスター・シティでペップ・グアルディオラ監督のアシスタントコーチとして修行を積んでいた。とはいえトップリーグでの監督経験はなく、指導力も未知数。それでも就任してすぐに絶不調に陥っていたアーセナルに改善のきっかけを植えつけた。

若手の台頭が将来への希望に

 新指揮官はまずビルドアップに手を加えた。4-2-3-1を基本システムにしながら、攻撃時にはサイドバックが高い位置を取り、セントラルMFのグラニト・ジャカがセンターバックの左脇に降りて組み立てに関わる。

 後ろからの配球を安定させ、じっくり丁寧にボールを前進させられるようになったことで、攻撃時に3-2-5のような形になる変則システムが機能するように。フィニッシュに至る崩しの局面でゴール前により多くの人数をかけられるようにもなった。

 ただ、年明けに12位まで沈んでいたチームを劇的なV字回復に導くには至らず。負傷者が続出し、なかなかメンバーを固定できていなかった最終ラインに補強も施したが、それも大きな効果をあげたとは言えなかった。

 アルテタの改革が期待通りに進まなかった原因、大きな頭痛の種はまさしく守備にあった。まず年間を通してフル稼働できたのがダビド・ルイスだけで、このベテランも不安定さは否めず。貴重な左利きのストッパーとして期待された冬の新加入選手、パブロ・マリもリーグ戦2試合とFAカップ1試合のみの出場で終盤は負傷離脱を強いられた。

 ソクラティス・パパドプーロスやシュコドラン・ムスタフィ、ロブ・ホールディングも信頼を掴みきれず、両サイドバックにも絶対的な存在が現れなかった。結果的に最終ラインに盤石のユニットを築けず、常に不安を抱えたまま戦っていた。

 その結末がプレミアリーグ8位であり、25年ぶりのトップ6陥落、この四半世紀で最悪の成績につながったのである。アルテタ監督も与えられた戦力に限りがあり、負傷者も続出、そしてじっくりとチーム作りに取り組む時間もない状況では相当苦しかっただろう。

 だが、屈辱的な成績に終わったシーズンにも将来への光明はあった。攻撃的なポジションから左サイドバックにコンバートされるなど、複数の役割を柔軟にこなしたブカヨ・サカをはじめ、若手選手の成長は頼もしい。

 ブラジルから連れてきた無名の18歳、ガブリエル・マルティネッリも継続的な出番を得て、途中出場がメインながらシーズン公式戦二桁得点を達成。シーズン途中でレンタル先から呼び戻されたエディー・エンケティアも貴重な戦力になった。

 リース・ネルソンやジョー・ウィロックも台頭し、エインズリー・メイトランド=ナイルズはシーズン終了後の9月にイングランド代表から初招集を受けるまで成長を遂げた。彼らはアルテタ監督の薫陶を受け、アーセナルの未来を背負って立つ重要な存在だ。

積極補強でCL出場圏内返り咲きへ

ミケル・アルテタ
【写真:Getty Images】

 シーズンが進むに連れて夏の新加入選手たちのプレミアリーグへの適応も進んだ。開幕当初は鳴かず飛ばずだったニコラ・ぺぺも徐々に特徴を発揮できるようになり、ダニ・セバージョスはイングランドのハイテンポなフットボールに馴染むと中盤に欠かせないエンジンになった。

 レアル・マドリードからの期限付き移籍だったセバージョスに関しては、新シーズンに向けて再レンタルが決定。これもアルテタ監督にとっては朗報だろう。

 アーセナルは6月のシーズン再開から3バックを採用し、課題だった守備を「人数」で解決する方向に舵を切った。ボール非保持時には5バックになることも辞さず、ボール保持時に両ウィングバックを前線まで上げて攻撃に厚みを加える手法だ。

 グアルディオラ的要素を含んだ戦術を、アーセナルに所属する選手の特徴に合わせて少しずつ調整しながら戦っていくのは2020/21シーズンも変わらないだろう。もちろん弱点を克服するための補強も進んでいる。

 ピエール=エメリク・オーバメヤンがプレミアリーグ得点ランキング2位の22得点、アレクサンドル・ラカゼットも10得点を挙げた前線には、チェルシーからウィリアンが加わった。コンスタントなパフォーマンスを保証するベテランのチャンスメイクがあれば、2人のストライカーのゴールも増えるかもしれない。

 泣きどころだった最終ラインには、フラメンゴからの期限付き移籍だったパブロ・マリが完全移籍に切り替わって残留。昨夏の市場で獲得を決め、そのまま移籍元のサンテティエンヌに貸し出していた19歳のウィリアム・サリバも新シーズンから本格的にアーセナルでのキャリアを始めることになる。

 さらに東京五輪世代のブラジル代表にも選ばれているガブリエウ・マガリャンイスをリールから獲得。若手の逸材を次々とスカッドに加え、陣容刷新の準備が整った。

 すでに始まった2020/21シーズンは、手始めにコミュニティ・シールドでリーグ王者のリバプールと激戦を繰り広げ、PK戦の末にタイトルを勝ち取った。アルテタ監督が初めてプレシーズンからチーム作りを進められてもいる。

 25年ぶりのトップ6陥落という不名誉なシーズンを払拭し、新たな時代を築けるだろうか。指揮官の双肩にかかる責任と期待は大きい。アーセン・ヴェンゲル去りし後、明確な方針を打ち出せず迷走していたアーセナルの行く先は、アルテタ監督の舵取りにかかっている。

(文:編集部)

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なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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