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日本代表 3年前

Jリーグ経験が浅くても…早期の欧州移籍が日本代表に繋がる時代へ。奥川雅也らの招集で多様化するプロセス【週刊J批評】

日本サッカー協会(JFA)は5日、オーストリアで行われる国際親善試合に挑む日本代表メンバーを発表。新型コロナウイルスの影響により今回も欧州組のみの招集となった。その中で堂安律の不参加が決まり、奥川雅也が追加で初招集を受けた(合流できるかは現時点で未定)。奥川はJリーグデビュー後間もなくして欧州へ移籍、そして日本代表入りを掴んだが、今後もそのようなケースは増えてくるかもしれない。(文:河治良幸)

text by 河治良幸 photo by JFA

10月に引き続き再び欧州組のみ

日本代表
【写真提供:日本サッカー協会】

 森保一監督が率いる日本代表のオーストリア遠征は10月のオランダ遠征に引き続き、欧州組のみの参加となった。周知の通り、新型コロナウイルスの事情によるものだが、欧州組だけでフル代表のメンバーが組める時代になったことを改めて印象付ける。

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 今回のメンバーからは堂安律(ビーレフェルト)がクラブ事情で不参加となり、奥川雅也(ザルツブルク)が追加で初招集となった。その発表後にクラブ内で新型コロナウイルスの感染が複数の選手に広まったことにより、代表参加が危ぶまれているが、何れにしても京都サンガF.C.でトップデビューして間もなくオーストリアに渡り、3度のレンタルを経て名門ザルツブルクの主力に定着したことが評価されたことに変わりはない。

「彼自身のパフォーマンスも上がっていると思いますし、例えば南野(拓実)がザルツブルクにいた当時から試合には絡めるようになっていたと思いますけど、南野がリバプールに移籍して、ザルツブルクの選手が替わっていく中で、レギュラーというような形でプレーできるようになってきているということは確認してますし、本人のプレーも存在感というか、力強さも増してきているのかなというふうに思います」。

 直近ではチャンピオンズリーグ(CL)のバイエルン・ミュンヘン戦で衝撃的なゴールを記録したことも森保監督の評価をさらに高めたようだ。これまでJリーグを経験せずA代表に選ばれた事例としては2012年の宮市亮が記憶に新しいが、最近の堂安や冨安健洋、菅原由勢などJリーグでデビューして間もなく欧州移籍し、そこで評価を高めてA代表というケースが徐々に増えてきていることは間違いない。

 堂安と奥川を含めた今回の招集メンバーから欧州移籍した年と年齢をまとめた。

GK
川島永嗣 2010年 27歳
権田修一  2016年 26歳(J復帰後、2019年に再渡欧)
シュミット・ダニエル  2019年 27歳

DF
長友佑都  2010年 23歳
吉田麻也  2010年 22歳(契約は2010年12月28日)
酒井宏樹  2012年 22歳
室屋成  2020年 26歳
植田直通  2018年 23歳
板倉滉  2019年 21歳(22歳の直前)
冨安健洋  2018年 19歳
菅原由勢  2019年 18歳(19歳の直前)

MF
原口元気  2014年 23歳(23歳になったばかり)
柴崎岳  2017年 24歳
遠藤航  2018年 25歳
伊東純也  2019年 25歳(誕生日の前月)
橋本拳人  2020年 26歳(誕生日の前月)
南野拓実  2015年 19歳(20歳の直前)
鎌田大地  2017年 20歳
中山雄太  2019年 21歳(誕生日の前月)
三好康児  2019年 22歳
堂安律  2017年 19歳(19歳になったばかり)
久保建英  2019年 18歳(18歳になったばかり)
奥川雅也 2015年 19歳

FW
鈴木武蔵  2020年 26歳
浅野拓磨  2016年 21歳

 ご覧の通り、年齢に関しては直前か直後かといった違いもあるが、大枠で見ると欧州移籍の年齢は以下の通りになる。

18歳 2人(菅原、久保)
19歳 4人(冨安、南野、堂安、奥川)
20歳 1人(鎌田)
21歳 3人(板倉、中山、浅野)
22歳 3人(吉田、酒井、三好)
23歳 3人(長友、植田、原口)
24歳 1人(柴崎)
25歳 2人(遠藤、伊東)
26歳 4人(権田、室屋、橋本、鈴木)
27歳 2人(川島、シュミット)

欧州移籍後に代表での存在感を強めた選手たち

 やはりJリーグの下部組織から選手は比較的、早い年齢で移籍しているケースが多い。18歳、19歳での移籍は全てユース組だ。

 高体連の出身者で最も早いのが鎌田の20歳で、サガン鳥栖で2年半プレーしてフランクフルトに移籍している。こうした年齢で欧州移籍している選手は久保建英をのぞくと、その時点でA代表に選ばれた経験が無く、欧州の環境で結果を残したり、ステップアップを果たしたことが代表にも結び付いている。

 ただし、今回の奥川が2014年にAFC U-19選手権を経験して以来の代表入りとなったのは例外的で、堂安や冨安、菅原にしてもU-20代表や東京五輪に向けたチーム(現U-23)など、アンダー世代の代表からスムーズにA代表につながっているケースが主流となっている。

 鎌田に関しては遠藤航や浅野拓磨と同じリオ五輪の候補だったが、同世代では一番下の1996年生まれというハンディもあり、本大会のメンバーには残れなかった。奥川も同年代で、鎌田よりさらに代表から離れていたが、事情は少し似ているところがある。

 21歳で欧州移籍した3人のうち板倉と中山も欧州移籍してからA代表に選ばれたが、彼らも東京五輪を目指す、もう1つの“森保ジャパン”で主力を担う選手たちであり、その流れもある。

 浅野はサンフレッチェ広島に在籍していた2015年に、国内組で臨んだ東アジアカップ(現・EAFF E-1選手権)でA代表に初めて選ばれ、翌年のリオ五輪前にアーセナル移籍を発表、労働許可が降りずにドイツのシュトゥットガルト移籍となった。フルメンバーのA代表には同年9月のロシアワールドカップ・アジア3次予選から経験している。

 欧州で11年目を迎えている吉田麻也は2011年のアジアカップでブレイクした印象は強いが、A代表の初招集はまだ名古屋グランパスに在籍していた2009年のイエメン戦だった。その直後にオランダのVVVフェンロ移籍を発表している。ただ、この時の代表チームは若手主体のメンバー構成で、その意味ではやはり欧州で着実に評価を高めてA代表定着を果たした一人であることは確かだ。

Jリーグ在籍時から代表に名を連ねていた選手たち

 現在のメンバーで“国内組”と呼ばれるJリーグ在籍時からA代表を経験しているのはGKの3人と酒井宏樹、植田直通、室屋成、橋本拳人、原口元気、柴崎岳、遠藤航、伊東純也、鈴木武蔵と言った選手たち。酒井宏樹は柏レイソル時代、ロンドン五輪の直前に行われたキリンチャレンジカップのアゼルバイジャン戦でデビュー、その2ヶ月後の7月にドイツのハノーファー移籍が発表された。

 植田直通と柴崎岳は鹿島アントラーズに在籍していた時からA代表を経験しており、Jリーグで代表レベルの基盤を作り上げてから、さらなる成長を求めて欧州へ飛び立った選手たちだ。

 原口元気も浦和レッズに所属していた2011年にA代表を経験しているが、2年間ほど代表から遠ざかっている時期にドイツのヘルタ・ベルリン移籍。当初は怪我などに苦しんだが、現在の献身的なスタイルを再構築して“ハリルジャパン”の申し子的な存在となり、西野朗監督が率いたロシアW杯でも主力として活躍した。

 遠藤航は湘南ベルマーレでトップデビューしてから浦和レッズでキャリアを積み上げ、ベルギーのシント=トロイデンから当時ドイツ2部だったシュトゥットガルトに移籍し、名門クラブの1部昇格に大きく貢献した。彼も浅野と同じリオ五輪の主力で、まだ湘南に在籍していた2015年の東アジアカップでA代表デビューしており、浦和レッズ時代にロシアW杯のメンバー入りを果たした。しかし、出番なく大会を終えると帰国後、7月のセレッソ大阪戦を最後にシント=トロイデン移籍を発表している。

 伊東純也は大卒でヴァンフォーレ甲府に加入し、柏レイソルでさらに成長して、国内組のみで臨んだ2017年のEAFF E-1選手権に招集されたが、ロシアW杯のメンバーには選ばれなかった。しかし、森保監督が就任して最初の合宿に招集されて、コスタリカ戦で代表初ゴールを決めている。

 そんな彼がベルギーのヘンクに移籍をしたのは2019年アジア杯の直後だった。25歳の終わりという年齢での移籍に一部疑問の声もあったが、早期に主力の座を掴んで雑音を封印。欧州最高峰のCLを経験するなど、クラブと代表の両方で順調な成長を見せている象徴的な選手だ。

ケース1つひとつが日本サッカーの蓄積に

 橋本拳人、室屋成、鈴木武蔵の3人も今年の夏になって欧州移籍を表明した“元国内組”の選手たちで、3人とも26歳という比較的高い年齢での挑戦となったが、早々に活躍している姿を見ると、Jリーグでのベースがしっかりしている選手は欧州でもすぐに通用する部分が多いという評価基準を印象付けている。

 もちろんロシア、ドイツ2部、ベルギーというステージは欧州のトップトップとまでは言えないが、Jリーグとまた異なる厳しい環境であることは間違いない。伊東や遠藤も含めて、比較的遅いタイミングで欧州移籍した選手たちのクラブや代表での活躍が、Jリーグの評価を1つ高みに押し上げる起点になることを期待している。

 その一方で今回の奥川に見られるように、Jリーグデビューして間も無く欧州に環境を移して、そこで確かな成長を見せてA代表に飛躍してくる選手も今後増えてくる可能性が高い。これまではアンダー世代を含めた代表活動に参加して、そこで欧州志向を高めるケースが多かったようだが、U-16代表やU-19代表を取材していて感じるのは、そうした代表での刺激以前に欧州でのプレーを夢というより現実目標にしている選手が多くなっているのだ。

 ただ、やはり早期の移籍に相応のリスクはつきもので、周囲の期待を背負いながら早期の欧州移籍、海外移籍が南野や奥川、菅原のような成功につながらないケースも多々ある。

 結局100%の正解が無い世界で、それぞれが選手としての目標とプロセスにどう向き合い、国内外の環境で成長につなげていけるかが大事だが、A代表における欧州組が主流になっていく中で、いろんなケースが出てきており、1つひとつが参考例として日本サッカーに蓄積していることは確かだ。

(文:河治良幸)

【了】

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