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バイエルンで最先端の戦術より頼りのなるのは…。消化試合で見せたCL連覇への野心と手にした収穫【CL分析コラム】

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループA第5節、アトレティコ・マドリード対バイエルン・ミュンヘンが現地時間1日に行われ、1-1の引き分けに終わった。すでに決勝トーナメント進出を決めているバイエルンにとっては消化試合となり、若手選手を積極的に起用。CL連覇に向け、いくつもの収穫を手にしたゲームとなった。(文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

バイエルンの野心

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【写真:Getty Images】

 消化試合でも“本気モード”の男がいた。現地時間12月1日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループA第5節。バイエルン・ミュンヘンはイベリア半島に遠征してアトレティコ・マドリードと対戦した。ドイツとスペインのビッグクラブ同士という、カードの名前だけを観れば大一番のようだが、既にグループ突破を決めているバイエルンにとっては消化試合。絶対的なレギュラーのGKマヌエル・ノイアーやFWロベルト・レバンドフスキは遠征に帯同しなかった。“御大”のトーマス・ミュラーはベンチスタートである。

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 ハンジ・フリック監督は昨季のCLを制覇した。それはつまり、長いトーナメントを勝ち抜くための、選手のやりくりの重要性を誰よりも知っているとも言える。そしてもちろん今季も優勝を狙っているだろう。このアトレティコ戦では、3バックの中央をダヴィド・アラバに任せて要所は締めつつも、ジャマル・ムシアラ、ブライト・アクウォ・アレイ=ムビという2人の17歳をピッチに送り出した。抜本的なローテーションは、かえってCL連覇の野心の現れなのだ。

消化試合で手にした収穫

 試合は案の定、アトレティコに先制される。26分、マルコス・ジョレンテに左サイドを抉られると、マイナスの折り返しをニクラス・ズーレの前に入ってきたジョアン・フェリックスに決められて失点。まだ突破が決まっていないのだから当たり前だが、ディエゴ・シメオネのチームは、勝負所で瞬間的にギアを上げてきた。

 もっとも、消化試合だったとは言え、バイエルンにとって何も“収穫”がなかったわけではない。まず、アラバを3バックの中央に据えるオプションを試すことができた。この戦術理解力の高いオーストリア代表DFが中心の3バックは、普段のブンデスリーガでは必要ないかもしれない。ただ、CLの決勝トーナメントでビッグクラブと対戦した時、例えばリードを守って逃げ切るための重要なオプションとなる可能性がある。

 また、2人の17歳の内のひとり、ムシアラは既にブンデスリーガではコンスタントに出場機会を得て2ゴールを決めているが、このアトレティコ戦がCL初先発。31分には、マリオ・エルモソをダブルタッチでかわして、1人でボックス内にドリブルで持ち込んでシュートを打つなど、光るプレーを見せた。76分に交代となったが、フリック監督も期待を寄せる17歳のMFにとって、このアトレティコ戦は貴重な経験となったに違いない。

最先端の戦術より頼りになるもの

 そして何よりの収穫は、消化試合でも“本気モード”の男がいたことだ。62分から投入されたミュラーは、いつもと変わらないテンションで85分にPKを獲得。このチャンスを自らきっちり決め切ると、雄叫びを上げてガッツポーズ。あくまで消化試合なので、0-1で負けても問題ないのだが、あたかも自分がチームを敗退から救ったような様子は、これまたいつもと変わらない。

 なんだかんだサッカーのチームも人間の集まりなので、CLのような長丁場のトーナメントを勝ち上がるには、ミュラーのような精神的支柱というか、異常な負けず嫌いは必要だろう。これがロボットの集団だったら、洗練された戦術だけを整備すれば問題ないかもしれないが、どうしても人間には感情や体力といった動物的要素が付きまとう。

 ビッグマッチでは、運動量が落ちる苦しい時間帯で足が一歩出るか出ないかが勝負の分かれ目だったりする。もちろんマッチプランや戦術も必要だが、相手も人間の集団なので、CLの決勝トーナメントのようなビッグクラブ相手の試合になればなるほど、スムーズにいくことの方が稀だ。

 今回のアトレティコ戦は消化試合だったが、仮に最低でも引き分けで終えなければ敗退という条件の試合だったらどうだろうか。0-1で85分を過ぎた場合、最先端の戦術にこだわるよりも、ミュラーのような不器用だけど勝負強い選手の方が頼りになるのではないか。

 1-1のドローに終わった後で、フリック監督は「我々にとって多くの見識があった成功した夜」と振り返った。CL連覇に向けて、ドイツ王者は多くの“収穫”をイベリア半島から持ち帰ったようだ。

(文:本田千尋)

【了】

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