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「GKのプレーはメンタルが80%」。MLSでGKコーチを務める野村祐太が感じる「日本人が高めるべき部分」とは?【英国人の視点】

野村祐太氏は現在、MLSのニューイングランド・レボリューションのリザーブチームでGKを務めている。米国の大学サッカーで選手キャリアを切り開き、現在は米国で指導者キャリアを歩む野村氏は「サッカーの外側の部分にももっと取り組む必要がある」と語る。この言葉が指すものとは?(取材・文:ショーン・キャロル)

シリーズ:英国人の視点 text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

米国で切り開いたキャリア

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【写真:Getty Images】

 今年は海外でプレーする日本人の存在感の高まりにスポットライトが当たる1年となった。新型コロナウイルスのパンデミックの影響により、代表チームの限られた試合も国外でプレーする選手のみを集めたメンバーで戦わなければならなかった。一昔前であれば日本代表の監督が集めることは不可能なメンバーだった。

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 だが、日本国外でそれぞれのキャリアを歩んでいるのは、サムライブルーのスター選手たちばかりではない。多種多様な日本人選手たちが世界中の様々なレベルで自らの力を試している。その中には野村祐太氏のように、指導者として評価され始めている者も存在する。

 東京で育った野村氏は高校を卒業するまで三菱養和SCでGKとしてプレー。その後は選手としてのキャリアを続行するため日本を離れることを決断した。

「三菱養和にいた頃、国際大会に出場するためドイツを訪れる機会がありました。それがある種のきっかけになって、海外でプレーしたいと考えるようになったんです」と彼は語る。「英語が通じないチームは僕らだけだったということがショックで、英語を話せるようになりたい、そして海外でプレーしたいと思いました」

 願いは程なく叶えられることになる。米国でのトライアルに参加したあと、ケンタッキー州のリンジー・ウィルソン大学からオファーを受けた。その後も順調に事が運び、同大学ですぐにファーストチョイスのGKに定着。チームは9度目となるNAIAナショナル・チャンピオンシップ優勝を飾った。

「僕のプレーはアメリカのサッカーにとって大きな驚きだったようです」と野村氏は自身の技術的スタイルについて語る。「日本のGKは足元のプレーがすごく得意なんですが、アメリカのGKにとっては苦手としている部分です。僕のプレーに衝撃を受けたというチームや監督が多かったですね」

26歳で下した決断

 だが大学卒業後の野村氏が外国人枠に制限のあるMLSで契約を勝ち取るのは難しく、彼はスウェーデンへと渡ることを選んだ。さほど契約条件の良くない下部リーグで2年半を過ごしたあと、何か別のことに挑戦すべきではないかと考え始める。そして26歳の若さで、コーチとしてアメリカに戻らないかという誘いを受けることになった。

「最後尾から繋ぐプレーを教えられるようなGKコーチになってくれないかという話でした」と彼は予想外のオファーについて振り返る。「アメリカのGKにそれができないとは言いませんが、一般的に日本の選手の方が基礎はしっかりしていて、蹴ることもパスを出すこともキャッチもできます。そういう部分が目を引いたというのが誘ってもらえた理由でした」

 それはグローブを脱いで現役生活を終えるという難しい選択を意味していたが、野村氏は早い段階で指導者としてのキャリアを歩み始めるチャンスを掴むことを決断。すぐにアメリカへ戻ると、大学学生人事管理(CSPA)の修士号取得に向けた勉強のかたわら、セントラル・アーカンソー大学の若く有望な選手たちに自身のノウハウを伝授し始めた。

「学生たちにどう話をするか。選手たちにどう話をするか。そういうことを学べたのはプラスになりました。選手に対する共感の示し方について別の観点が得られました」と大学で学んだことについて野村氏は語る。

日本人が海外で成功するためには…

 そういったアプローチを通してアーカンソーで評判を高めた彼は、今年からMLSクラブであるニューイングランド・レボリューションのリザーブチームでプロコーチとしての第一歩を踏み出すことになった。

 現在はトップチームを率いる元アメリカ代表監督のブルース・アリーナ氏や、GKコーチであるケビン・ヒッチコック氏とも一緒に仕事をしている。ヒッチコック氏は現役時代にチェルシーでプレーし、ブラックバーン・ローバーズやマンチェスター・シティ、ウェストハム・ユナイテッドなどでコーチを務めた人物だ。

「オフィスを訪れるたびに、今でも夢のように感じています。自分が経験豊富でないことも、トップレベルのGKではないことも分かっていますが、他のGKコーチにはない何かを持っていることも確かだと思います。どんなことも当たり前とは思わず、オープンな意識を持って、全ての人から学ぼうとしています。それが自分の強みだと思っています」

 特に力を入れた分野のひとつが、英語の習得に関する部分だった。海外で成功を収めたいと望む全ての日本人選手にとってきわめて重要な能力だと彼は考えている。

「日本にいた頃もかなり勉強はしましたが、やはり学ぶのと実際に話すのは全く別物で苦労しました。ケンタッキーにいたのは良かったと思います。周りに日本人はあまりいなくて、英語に集中することができました。それはかなり大きかったですね」

「海外でプレーできる日本人GKも間違いなくたくさんいるはずです。技術的には素晴らしいものがあります。ですが、言葉などの部分が非常に大事になってくるとも思います。言葉が分からず、監督から何を要求されているのか理解できなければプレーすることはできません。そこは日本人が高めるべき部分です。サッカー自体に集中するだけでなく、サッカーの外側の部分にももっと取り組む必要があると思います」

小久保玲央ブライアンを評価する理由

「コーチになった今、日本の指導者たちももっと海外に出るべきだと考えています。JFAがオランダのレジェンドであるフランス・フックさんを招いているのも知っていますし、そういう方を連れてくるのも大事だとは思いますが、外に出て、どういうサッカーがプレーされているのか、どういう方法論が用いられているのかに触れてみて、持ち帰ることも必要じゃないかと。そう考えています」

 おそらくそういった観点から、日本の次世代のナンバーワン候補として野村氏はある選手の名前を挙げた。

「今すぐということではないですが、ベンフィカの小久保玲央ブライアンは気に入っています。彼のビデオを見ましたが、身長や運動能力を考えれば今後の代表チームのナンバーワンGKになれるかもしれません。(ベンフィカの)Bチームのレギュラーで、トップチームでも練習していると思います。練習も試合も見た上で、次のレベルのGKだと思っています。すごく運動能力が高くて、身長があって、右足でも左足でも問題なくボールを出すことができる。空中戦の強さもあります」

 まだ19歳の小久保には学ぶべきことも多いとしても、プレーに必要な材料は揃っている。その上で野村氏は、小久保にとっても他の全てのGKたちにとっても、ゲームの心理面こそが集中して取り組むべき重要なポイントだと考えている。

「GKのプレーはメンタルが80%、技術が10%、あとは5%か10%くらいがプレーに対する理解力であると考えています」と彼は説明する。

「ニューイングランドでもGKたちにはそういう話をしています。自分を安全な場所に置いてはならない。そうでなければ学ぶことも成長することもできないと」

 自分自身を何度も窮地に追い込むことで、野村氏はその主張の意味するところを自ら証明してきた。これからどのような道を辿っていくのか、小久保と同じくらい野村氏自身のキャリアにも注目し続けていく価値があることは間違いない。

(取材・文:ショーン・キャロル)

【了】

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