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では、アレクサンダー=アーノルドが担う役割とは? リバプールが実現した独創的なスタイル【クロップ流SB起用法(3)】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から発売に先駆けて一部抜粋して全3回で公開する。今回は第3回。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

クロップが生み出した独創的な解決法

トレント・アレクサンダー=アーノルド
【写真:Getty Images】

 2019/20シーズンのアレクサンダー=アーノルドには以前よりはるかに自由な役割が与えられ、通常であれば逆のSBが位置取りするようなポジションにまで移動する能力を発揮する様子が見られた。

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 この動きによって彼は本来CMがいるような中央のエリアにまで移動していた。アウトサイドからインサイドへ移動することで、アレクサンダー=アーノルドがボールを保持する際の角度に変化が生じ、彼はより直接的な形で試合に影響を及ぼすことが可能となる。

 もちろん、これでは右サイドの横幅を確保する必要があるという問題は解決されず、サラーとアレクサンダー=アーノルドが2人とも内側に絞ってプレーすることでピッチ中央がさらに過密になってしまう危険性もある。

 そこでクロップは独創的な解決法を生み出した。リバプールがボールを持った際には、通常であればジョーダン・ヘンダーソン、あるいはアレックス・オックスレイド=チェンバレンが務める右側のCMが右サイドのタッチライン際まで開いてくる。これで相手は陣形を引き伸ばされ、アレクサンダー=アーノルドがボールを持った時に利用できるスペースが作り出されることになる。

 創造的な存在としてチーム内で明らかに最も重要な選手をこのように別の役割へと移すのは、試合に対する支配力をさらに高めるためにクロップと彼のスタッフによって計画されたことだ。ドイツ人指揮官がリバプールに着任した当初は「ゲーゲンプレッシング」という言葉が盛んに取り上げられ、クロップの得意とするハイテンポでアグレッシブなプレースタイルが導入されそうな兆候が感じ取れた。

19/20シーズンに生じた変化とは?

 だが、2019/20シーズンには変化が生じてきた。相手ボール時の対応としては今でもリバプールのプレーの中で極めて重要な位置を占めてはいるが、もはやプレッシングはリバプールのアイデンティティの主要部分ではなくなった。むしろ現在の彼らは試合を支配し、より効率的な形でリズムをコントロールしようとしている。

 アレクサンダー=アーノルドがインサイドへ移動して中央でのプレーに絡めるようになった今、リバプールははるかに効果的に試合をコントロールし、相手ペナルティーエリア内へと侵入できるパスコースを見つけるまでボールを動かし続けることが可能となった。

 2019/20シーズンを通して、アレクサンダー=アーノルドは欧州でも屈指の効率的なパサーであり効果的にゲームメイクを行うことができる選手となった。クロップがこの若き右SBにチーム内でこれほどの重要な役割を与えるに至った理由は、直線的なパスでも浮き球パスでもピッチ上のあらゆるエリアにアクセスできる能力にある。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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