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今季のモイーズは一味違う? ウェストハムが5位浮上。カウンターからのシュート0でビエルサのリーズを撃破した方法【分析コラム】

プレミアリーグ第12節、リーズ・ユナイテッド対ウェストハム・ユナイテッドが現地時間11日に行われ、1-2でウェストハムが勝利した。今季6勝目を挙げたウェストハムは暫定5位に浮上。デイビッド・モイーズ監督が率いるウェストハムは一味違う戦いを見せた。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

セットプレーから2発

 デイビッド・モイーズのチームらしい勝利だった。PKを与えて6分に先制を許したが、セットプレーから2点を奪って逆転に成功。ウェストハムは今季6勝目を挙げ、暫定順位で5位に入っている。

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 立ち上がりはリーズのペースだった。少ないタッチでボールを動かし、空いたスペースになだれ込んでいく。セバスティアン・ハラーのトラップが大きくなったところをリアム・クーパーがカット。スルーパスを受けたパトリック・バンフォードがGKに倒されてPKを獲得した。

 1度目のPKはGKウカシュ・ファビアンスキにキャッチされたが、キックの前に両足が出ていたためにやり直しに。2度目はマテウシュ・クリヒが成功させている。

 ウェストハムは12試合で20得点を挙げている。データサイト『Whoscored.com』の集計では、セットプレーによる得点はリーグ最多タイの7得点。得点数が未だ1桁のバーンリー、シェフィールド、ウェストブロムを除けば、セットプレーが得点を占める割合はプレミアリーグでトップとなっている。

 得点を奪ったトマーシュ・ソウチェクとアンジェロ・オグボンナはともに190cmオーバー。その他にもデクラン・ライス、ファビアン・バルブエナ、ハラーと高身長で空中戦に強い選手が並ぶ。リーズにとってはマークすべきエアバトラーが多く、対応は困難を極めた。

エースの不在と代替案

 逆転勝利へと導いたのはセットプレーだったが、そこの至る過程が興味深かった。今季のウェストハムは5-4-1で戦うことがほとんどだったが、この試合では4-4-1-1で臨んでいる。

 前節からは左ウイングバックのアルトゥール・マスアクに替えてサイード・ベンラーマを起用。4人の中盤の顔触れは変わらず、ベンラーマは1トップを務めるハラーの背後に入っている。

 ウェストハムはマイケル・アントニオの不在が続く。10月24日のマンチェスター・シティ戦でハムストリングを痛めて3試合を欠場。11月30日のアストン・ヴィラ戦で復帰したが、再び同箇所を痛めて前半でピッチから退いている。

 ウェストハムの失点シーンを振り返ると、ハラーのポストプレーでボールを奪われている。アントニオがに代わって起用されているハラーは、カウンターの起点となるポストプレーにおいては心許ない。しかし、セカンドトップで起用されたベンラーマがカウンターの代替案となっていた。

 ウェストハムが中盤でボールを奪うと、セカンドトップのベンラーマはサイドに流れてボールを受けた。リーズはアンカーのカルビン・フィリップスがマークの担当だったが、ベンラーマを捕まえきれず。ウェストハムはそこに両サイドハーフのジャロッド・ボーウェンとパブロ・フォルナルスが駆け上がってカウンターを成立させていた。

今季のモイーズは一味違う?

 カウンターを発動する場面は多かったが、意外にもカウンターからのシュートはなかった。しかし、カウンターからリーズを押し込むことはできている。この試合で放ったシュートは19本で、リーズの13本を上回る。オープンな状況から13回もフィニッシュに繋げた。

 中盤の底でプレーするソウチェクとライスが正確なパスワークでボールをつなぎ、2次攻撃、3次攻撃とつなげていた。チームのパス成功率は70%を切っていたが、両者のパス成功率はともの80%台を記録している。

 ボールを奪ったらベンラーマを起点に素早く敵陣へ。シュートまでつなげなければソウチェクとライスを経由しながら相手を押し込んだ。リーズはマンマークでの守備には強いが、自陣の深い位置でゾーンを埋める守備は苦手としている。マルセロ・ビエルサは知らず知らずのうちに術中にハマっていた。

 守備ブロックを作り、ソリッドなカウンターを狙うのはモイーズの十八番だが、今のウェストハムは一味違う。アントニオがいないことも戦い方の変化に影響しているが、局所的に見ればリーズを相手に押し込むこともできた。そして、セットプレーから得点が奪えるのはウェストハムのような規模のチームにとっては心強い。

 プレミアリーグは群雄割拠だ。昨季はバーンリーがトップ10フィニッシュに成功し、今季はアストン・ヴィラが開幕ダッシュに成功した。そして、年末年始にかけて過密日程が続く中盤戦はロンドンをホームタウンとするワインレッドのチームに注目したい。

(文:加藤健一)

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