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マネとサラーは驚異的に補完し合う。リバプールを背負う2人の異なる特徴とは?【クロップ流・偽ウイング(3)】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、リバプールにとって最も重要な役割であるウイングを分析した「偽ウイング」を一部抜粋して全3回で公開する。今回は第3回。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

サディオ・マネのプロファイル

リバプール
【写真:Getty Images】

 ここまではマネとサラーがどちらも同じような役割を果たすものとして論じてきたが、実際には2人はそれぞれ異なるプロファイルを持った選手であり、お互いにその特徴を驚くほど効果的に補完し合っていることも指摘しておくべきだろう。

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 だが、まずは選手のプロファイルというものが何であるかをもう少し説明し、それがチームを構築する上で考慮すべき重要な要素であることを示しておくべきだろう。

 選手のプロファイルとは、その選手が持つプレーの傾向と、選手の性格、他の選手と互いにどう連携を取るかを組み合わせたものを指す。各選手の性格についてここで確かなことは言えないが、プロファイルを構成するプレーの傾向については論じることができる。

 マネとフィルミーノを例にとってみよう。フィルミーノは中央でプレーする傾向があり、マネは左サイドからスタートする傾向があるが、2019/20シーズン中にはフィルミーノが出場できずマネがCFとしてプレーした時もあった。このような場面でこそ、選手のプロファイルというものがいかに重要となり得るかがよくわかる。

 前章で述べたように、フィルミーノは最前線から手前の空きスペースへと下がってくる利他的な動きを取り、WGが中央に入り込んでいくためにはこれが重要となる。この深い位置へ下がる傾向はフィルミーノのプロファイルの一部だ。DFラインの裏へ走り込もうとすることは多くなく、それよりも引いてきてリンク役となる傾向が強い。

 マネが攻撃の中央のポジションで起用された試合と比べてみるとどうだろうか。マネは守備陣の背後に抜け出すことを狙い続け、DFラインの裏のスペースに入り込もうとしていた。これによりリバプールの攻撃構造も、他の選手たちが使えるスペースの位置も変わってくる。

 マネのプロファイルを構成する重要な要素はここにある。スピードを活かし、DFラインの裏へ走り込むことを好んでいるという部分だ。この動きは、スタート地点が低い位置であるほどさらに効果的となる傾向がある。ハーフスペースから鋭く爆発的な縦への突破を仕掛けられる彼の能力は、相手の守備ブロックに壊滅的被害をもたらし得る。マネは明らかに、スペースへ出されたパスをゴールに向かう体勢で受けることを好んでいる。

モハメド・サラーのプロファイル

 対照的にサラーは、スピードに秀でていることは同じでも、足元でボールを受けることを好んでいる。マネと同じようなポジション取りをしてはいるが、ボールを受ける際にはまず守備側の選手と体をぶつけ、そこからフィジカルの強さを活かして相手を弾き飛ばしたり振り切ったりしてペナルティーエリア内への道筋を作り出していく。

 サラーのもうひとつの武器は、ほとんど何の前触れもなくシュートに持ち込める力を持っていることだ。普通であれば、選手はシュートを打とうとしていることを体の動きで十分に悟られてしまう。姿勢が変化したり、一定のシュートモーションに入ったりするためだ。だが、サラーはごくわずかな予備動作だけでシュートに強い力を込めることができるため、ペナルティーエリア内で相手を交わせば予兆なくシュートを放つことができる。

 ここで、2人の選手のプロファイルがお互いに、またフィルミーノとの間でどう相互作用するかを考えていこう。フィルミーノが「10番」のスペースに下がってくることはすでにわかっているが、ここにさらなる情報を積み上げていく。サラーは中央でプレーしつつ、ペナルティーエリアの右側や中央のエリアでゴールに背を向けてボールを受けようとする。一方でマネは、常に前を向き、DFラインの裏に生まれるスペースを狙っていこうとしている。

 異なるさまざまなライン上で、さまざまな形でプレーを展開できるリバプールに対して守るのがいかに困難なことであるかがここから導き出せる。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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