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名門マルセイユがダメダメ。エース同士の諍い勃発に会長の場違いな発言も…クラブに一体何が?

日本代表DFの酒井宏樹と長友佑都が所属するマルセイユが苦しい。パリ・サンジェルマン(PSG)やモナコといった上位陣はもちろん、下位陣との戦いでもまったく勝てず、現在公式戦は4連敗中となっている。アンドレ・ビラス・ボアス監督率いるチームに何が起こっているのだろうか。(文:小川由紀子【フランス】)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

マルセイユは絶不調

マルセイユ
【写真:Getty Images】

 マルセイユが、暗いトンネルで立ち往生している。

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 1月中旬の第20節で、最下位にいたニームにホームで1-2と敗戦を喫すると、次もホームでRCランスに0-1の黒星。続いてモナコにも1-3で敗れて3連敗。パリ・サンジェルマン(PSG)とのスーパーカップも含めると4連敗中で、リーグ戦では直近の8試合で1勝のみ。スタッド・ランスやディジョンといった降格ラインをうろつく相手からも勝利を奪えていない。

 この状況に、昨年から指揮をとるアンドレ・ビアス・ボアス監督が辞表を出した、という噂も流れたが、モナコ戦前の会見で本人が「辞表を出したわけではない。私の去就はお任せする、と言っただけだ」と弁明した。フロントは彼への信頼を約束したそうだが、いずれにしても、ポルトガル人指揮官には責任をとる覚悟はできている、ということなのだろう。

 最下位のニームに負けたというのはフロント陣にとっても相当屈辱的だったようで、翌日ジャック=アンリ・エイロー会長が、選手たちに「君らの戦いぶりはこのユニフォームに恥じる!」と面を向かって喝を入れたという。

 まあしかし、この会長もサポーターからの信頼は薄く、最近のマッチデーには新型コロナウイルスの影響で入場はできないにもかかわらず、本拠地ヴェロドロームにサポーターが押しかけ、『会長は辞任しろ!』の抗議行動をしたりもしている。

 では、この不振に直接的な要因はあるのか?

両エースの間の諍いが勃発

 まずひとつに、今シーズンはあらゆる選手やクラブが現在のこの状況からなんらかの影響を受けている。前とは違う状況への順応は人それぞれであり、それがたとえ高給取りのサッカー選手であっても同じこと。コンディションは精神状態と直結しているから、「なんだかエンジンがかからない」、「なんだか調子が出ない」といった、自分自身でもコントロールできない状態に陥る選手もいる。

 それでもチームとして成績が出せていればギアも上げていけるが、マルセイユように暗いトンネルに入っているような状況だと、余計にどよ~ん、となってしまうのだ。

 より実質的な点では、選手の契約問題がある。

 ディミトリ・パイエ、フロリアン・トバンの両エースを筆頭に、控えストライカーのヴァレール・ジェルマン、左サイドバックのジョルダン・アマビなど、主力選手たちが2021年6月に契約満了を迎えることで、クラブ側と交渉に入っているのだ。それが、交渉が片付かないと気分的に落ち着かずに身が入らない、という、集中不足を招いている。

 さらにここから、パイエとトバンの間の諍いも勃発した。

 報道によれば、口論が起きたのはニームに敗れた後のこと。パイエがその試合でのトバンのプレーを非難したらしいのだが、その理由として「契約延長が頭にあるから、自分の成績のことばかり考えて利己的なプレーになっている」と指摘したというのだ。

 それに対してトバンは、一足早く契約を延長したパイエ(2024年6月末まで)が、クラブ側のサラリー減額要求をのんだのは裏切り行為だと非難し返した。 クラブ側と条件面で交渉していた者たちにとってそれは、“スト破り”のような行為にもあたるからだ。

 そもそもスポーツチームは必ずしも仲良しグループではないのだから、試合になれば勝利を目指して協力できるのがプロ選手(1月13日のPSGとのスーパーカップでもトバンのアシストからパイエが得点を決めている)。なので2人がお互いへの率直な思いをぶつけ合ったことよりも、成績不振でメディアやサポーターからも叩かれ、会長からもゲキが入るこの状況に、選手たちの気持ちがささくれ立っているという、これは黄信号だ。

会長が外国人選手を批判?

 ちなみに会長は、フランス語をまだ十分に話さない外国人選手についても批判的な発言をしたらしい。発破をかけたかったのかもしれないが、現状でのその発言は場違いなように思う。

 モナコ戦前の会見に登壇した酒井宏樹は、記者からこのことについて聞かれると、「まあでも本当だと思うし、ここで仕事をする以上はここで覚えることは覚えないといけないと思っています」と認めたあと、「ただ僕は、フランス語を話せない時もいまも自分のすべてを賭けて戦っていますし、そこについては、フランス語がしゃべれるしゃべれないで変わったことは一度もないです」と付け加えた。そこで自分のパフォーマンスを判断されたくない、という強い意志がこもった良い発言だったと思う。

 会長だけでなくビラス・ボアス監督も、外国人選手に対して言葉の問題を指摘しているらしいから、指揮官の目からみてコミュニケーションが足枷になった、と感じるパフォーマンスもあるのかもしれないが、外国人選手のプレーで何かマイナスがあると、すぐに「言葉の問題」だとステレオタイプに認定されてしまうきらいがあるのは常々感じる。まあこれはサッカーという職業に限ったことではないが。

 ただ、酒井にこの質問をした地元記者が、「会長や監督の発言にはカチンときませんか? 自分たちが4年日本に住んでも日本語なんていまのあなたのフランス語レベルまで到底話せないと思うから実際難しいと思うんですよ」という聞き方をしていたのを見て、彼らの目には、酒井は言葉のバリアは関係なくパフォーマンスできていると評価されているのだな、と感じた。

 それだけに、会長がそれを認めていないような発言は、喝を入れるどころか、むしろ逆効果だ。

新加入ミリクに懸かる期待

アルカディウシュ・ミリク
【写真:Getty Images】

 そしてピッチ上のパフォーマンスの面での問題点は、ずばり得点力のなさ。 20試合を終えて27得点。未消化試合が1つあるが、首位のPSGが48点、以下リール36点、リヨン44点、モナコ42点と続く。マルセイユの選手は、現在リーグの得点ランキングTOP10には入っておらず、チーム最多のトバンで6得点(首位はキリアン・ムバッペの14点)。パイエの指摘も少なからず的を射ていて、トバンは今季全試合に出場してはいるが、好調とはいえない。右足首の手術を受けて昨シーズンはほぼプレーしていないから、反応やリズムも今ひとつ、というのはあるだろう。

 それにパイエ自身も明らかにぽっちゃり気味で動きにキレがない。

 パイエは3月で34歳になるが、視野の良さやパス展開のうまさ、ロングパスの精度といった点に関しては、まだまだチームトップクラスの実力者。トバンも同様に、やはり抜群の攻撃センスがあるから、この2人が調子を上げることは、マルセイユ復調の大事なキーだ。

 期待は先日、ナポリから買い取りオプション付き、来年6月までの期限付きで獲得したポーランド人FWアルカディウシュ・ミリク。契約した翌日に練習に初参加し、その翌日のモナコ戦でラスト30分間出場というスピードデビュー。 アルゼンチン人CFダリオ・ベネデットもまだ4ゴールと、安定した得点力を発揮できていないから、ミリクには即戦力となることが求められている。

 ナポリでは、移籍問題がこじれて戦力外となっていたから、今シーズンはまだポーランド代表でしかプレーしていないが、その間みなぎる闘志をもてあましていた。初練習の様子をおさめた映像でも、うれしさ爆発、といった生き生きとした表情がなんとも印象的だったが、試合への飢えは格好のモチベーションになるだろう。

 イタリア語を話す長友佑都もミリクの受け入れに一役買っている様子だ。ビラス・ボアス監督は、ミリクはまさにチームが求めていた戦力だと語り、彼をワントップ、あるいはツートップの一角においた新たなシステムも考えていくと話している。

 会見で酒井宏樹も言っていたが、「一勝」が流れを変える。30日の次戦は、4点差で追う5位のレンヌが相手と厳しいが、「敗戦で自信を失ってまた負ける」、というスパイラルから抜け出すには、そしてチーム内のよどんだ雰囲気を吹き飛ばすには、ともかく一勝すること、それしかない。

 ミリクがラッキーボーイになるか? の注目ポイントも合わせて、次戦の様子をうかがいたい。

(文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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