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Jリーグ 3年前

「世界基準」とはかけ離れた秋田と栃木。その理由は…。ユーロ2020で明らかになった「真の弱者の兵法」【データアナリストの眼力・後編】

text by 庄司悟 photo by Getty Images

“異端のアナリスト”庄司悟は6/7発売の『フットボール批評issue32』で、第10節までの数値をもとにJ2全22クラブのコンセプトを「一枚の絵」にした。今回は6/12に開幕したユーロ2020の第1節全12試合の数値をもとに、一部でカルト的人気を誇るブラウブリッツ秋田と栃木SCの「尖ったサッカー」は世界基準にあるのか前後編で検証した。今回は後編。(文:庄司悟)

世界最高峰で戦う「弱者」の本当の姿は…

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 ユーロ2020第1節終了時点の24チームの各数値をまとめた表を見ていただきたい。中でもウクライナ代表のボール支配率37%は秋田(38・3%)とほぼ同じだ。ユーロ2020における立ち位置的にも、ウクライナはJ2における秋田と同じ「弱者」と言っていいだろう。

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 ところが、ウクライナ対オランダの正味時間は65:41分もあった。秋田の平均正味時間を実に約20分も上回っている。そして、ウクライナのパス成功率は85%を記録していた。これはウクライナがボールを無闇に蹴り出していない証拠であり、強豪相手でも「狙い」がしっかりとある証拠でもある。これが世界最高峰で戦う「弱者」が標榜するサッカーなのである。

 さらに付け加えるならば、スペイン代表相手に25%のボール支配率に終わったスウェーデン代表も、正味時間に関しては64:59分を記録していた。スペインの圧倒的なポゼッションによるものが大きかったとはいえ、スウェーデンが意図的に正味時間を削りにいっていないという事実もまた確かであろう。

 第1節の全12試合の正味時間を見ても、「サッカーはプレーするもの」+「ボールは転がるもの」という至極真っ当な通念が崩壊していないことがしかと伝わってくる。

 では、なぜ世界は正味時間が長いのか。これは現代のサッカーが球際の勝負を避け、球際の勝負をいなしていく時代に突入しているからだと筆者は考えている。1対1の球際勝負が重要視されていた時代から、今や複数人のユニットによる数的勝負こそが世界の潮流となっている。いまだに「デュエル、デュエル:超びっくりマーク:」と騒ぎ立てているのは、ここ日本くらいかもしれない。

 秋田と栃木を「世界基準」とするのはやはり無理がある。もちろん、ボール支配率を高めろとは言っていない。それよりも、ある程度の正味時間の中で、意図的な「狙い」のある攻撃を繰り出せるかどうか――。

 それができた上でようやく「世界基準の尖ったサッカー」と呼べるものになる。その「ビジュアル」だけで秋田と栃木を持ち上げてしまう行為は、世界との差をさらに広げる行為と同義である。

(文:庄司悟)

庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ。1974年の西ドイツW杯を現地で観戦し、1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現在はSportec Solutionsに社名を変更し、ブンデスリーガ公式データ、VARを担当)と提携。ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSの技術をもとに分析活動を開始

『フットボール批評issue32』

≪書籍概要≫
定価:1760円(本体1600円+税)

禁断の「脱J2魔境マニュアル」

我が国が誇る2部リーグ・J2は、「魔境」の2文字で片付けられて久しい。この「魔境」には2つの意味が込められていると考える。一つは「抜け出したいけど、抜け出せない」、もう一つは「抜け出したいけど、抜け出したくない気持ちも、ほんのちょっぴりある」。クラブの苦痛とサポーターの得体のしれない快楽が渾然一体となっているあやふやさこそ、J2を「魔境」の2文字で濁さざるをえない根源ではないだろうか。

1999年に創設されたJ2は今年で22年目を迎える。そろそろ、メスを入れることさえ許さなかった「魔境」を脱するためのマニュアル作りに着工してもよさそうな頃合いだろう。ポジショナルプレーとストーミングのどちらがJ2で有効か、そもそもJ2の勝ち方、J2の残留におけるメソッドはできないものなのか。このように考えている時点で、すでに我々も「魔境」に入り込んでいるのかもしれないが……。

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【了】

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