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熊谷紗希が「これが今の世界との差」と感じたこと。ピッチ内外に認識のズレ、日本女子サッカーの進むべき道とは…【東京五輪】

text by 舩木渉 photo by Getty Images

熊谷紗希
【写真:Getty Images】



 サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)は30日、東京五輪の準々決勝でスウェーデン女子代表に1-3で敗れた。なでしこジャパンが挑んだ2大会ぶりの五輪はベスト8で終わった。

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 序盤に先制されながら、1点を返して前半を終えたまではよかった。なでしこジャパンのキャプテンを務めるDF熊谷紗希も「自分たちが早い時間帯に追いついたのは大きなことだった」と振り返る。

 しかし、その後が続かなかった。試合スタッツを見てもボール支配率は59%で日本が上回っていながら、最終スコアは1-3。スウェーデンに対して日本は12本のシュートを放ち、相手と同じ6本の枠内シュートも記録しながら、敗れた瞬間には大きな「差」が感じられた。

「スウェーデンが自分たち(日本)のサッカーにうまく(プレスを)ハメられていなかったなかで、自分たちはもっとボールを握りながら、(ペナルティ)エリアの中に入っていくような、そういった怖さを持てるようなプレーを増やさなければいけなかった」

 この熊谷の言葉が、スウェーデンと日本の間にあった「差」の1つかもしれない。グループステージも含め、今大会の4試合では最も内容に充実感があった。序盤こそ相手の圧力に押し込まれたが、徐々にボールを握り返すと、即興性の高いポゼッションで両サイドバックの背後にできるスペースを狙う。そして、右サイドを破ってのクロスがFW田中美南の同点弾につながった。

 とはいえ、結局のところボールは支配していても、ゴールまで至る過程に怖さがなかった。リスクを冒してでもペナルティエリア内に仕掛けていくような姿勢はあまり見られず、体格差のある相手選手とのフィジカル勝負を避け、どこか“きれいに”崩そうとしているような雰囲気も。一方でスウェーデンは肉体的な強さを前面に押し出し、豪快な仕掛けとフィニッシュで日本のゴールに迫った。

「自分たちが(技術的に)上手くて(試合を)支配できて、相手の嫌なプレーができて、怖くて、結果を出せたかというと(そうではなく)、やっぱりこれが今の世界との差だと感じています。

これから自分たちが世界で勝っていくために何をしていかなければいけないか、もう一度考えるべきだし、上手いだけで勝てるわけではないので、自分たちのウィークな部分をどれだけ戦えるまでにしていくかが、これからの日本の女子サッカーの課題だと思います」

 欧州女子チャンピオンズリーグをはじめ世界最高峰の舞台で長く活躍してきた熊谷の言葉は重い。急速に進化する欧米の女子サッカー界に、日本は完全に置いていかれているのが現状だ。

 高倉麻子監督はスウェーデン戦後の記者会見で「日本の武器は何かというと、技術的な部分であったり、コレクティブにサッカーができることだったり、献身的にチームのために細かいところの理解を深めて組織的に戦っていけることだったり。それでも足りないのはフィジカル的な要素。守備でも攻撃でもペナルティエリア内での強さは、足りない部分だと思っていた」と語った。

 失点シーンに関しても、後半に追加点を奪えなかったことに関しても、高倉監督は「フィジカル的な要素」が原因だと述べた。そして「これからは圧倒的な個の力が必要だと思いますし、育成年代から、日本の武器である上手さに加え、ペナルティエリア内で決定的な仕事をできる、仕事をさせないということを課題にして取り組んでいけたら」とも。だが、「日本らしさ」を追い求めるあまり、どこか焦点がズレているような気がしている。

 日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長は「トータルで見れば、個々の選手の力が上回るスウェーデンに対して真正面から戦ったことで、世界における現在の日本女子サッカーの位置とこれから改善して成長していかなければならない点がはっきりとした」と試合後にコメントを寄せた。

 だが、「VARの不運なことも重なりながらも」と述べた点については、直接の敗因ではない。田嶋会長の「なでしこらしいサッカーを最後まで展開してくれた」という言葉を借りれば、「らしいサッカー」とは何かを見直すべき時にきているのではないだろうか。

 スウェーデン戦を終えた後、MF長谷川唯は「(欧州のチームが)日本のようなサッカーをしてくるのに加え、スピードがあるという中で、本当にどう戦っていくか考えなければいけないと思います。もっと理論的に、どこに立つとこういう選手が空いてくるというのも理解しながら、対応していかないと、なかなか自分たちよりもフィジカルで勝る相手に対抗するのは難しいのかなと。そういうところはもっと細かく突き詰めなければいけないなと思います」と語っていた。

 フィジカル的な差は、そもそもの体格の違いなどを除けば努力しだいである程度埋めることができる。日本女子サッカー界が伸ばしていくべきは、持っている技術を100%発揮するための戦術・戦略のベースの部分だ。同時に競技者を増やして裾野を広げていかなければならない。

 その意味でメダル獲得のチャンスを逃してしまったのは、日本女子サッカーの今後に向けて大きな痛手かもしれない。それでも9月からは日本女子サッカー初のプロリーグである「WE.リーグ」が開幕するなど、まだ挽回のチャンスはある。

「なでしこジャパンを目指す子どもたちに夢を与えられなかったので残念ですけど、このような状況でこのような大会を開催できたことに感謝しています。ここ(ベスト8)で終わった原因を、これからまだ続く女子サッカーのためにも、もっともっと追求していかなければいけないのかなと思います」(熊谷)

 東京五輪後からドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンに移籍する熊谷は「どういった形かはわからないですけど、女子サッカーのために自分ができることはやっていきたい」と話した。アーセナルに所属するFW岩渕真奈も「やり残したことが大きい」と、3年後のパリ五輪を目指すことを示唆している。

 彼女たちに続き、より高いレベルで「理論的な」最先端のサッカーに触れ、日本女子サッカー界の発展に貢献してくれる選手が増えることを期待したい。そして、なでしこジャパンが2年後の女子ワールドカップや3年後のパリ五輪で再び頂点を狙うため、今回の東京五輪が、成果と課題を正しく洗い出して方向性を見直すきっかけになることを願っている。

 サッカーは“上手い”だけで勝てるスポーツではない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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