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冨安健洋や遠藤航が指摘する「相手」を感じる意識の不足。日本代表は「誰がフリーになるかを全員が共有しないと…」【W杯アジア最終予選】

text by 編集部

冨安健洋
【写真:Getty Images】



 日本代表のカタールワールドカップ出場に暗雲が立ち込めてきている。7日に行われたアジア最終予選のサウジアラビア代表戦に0-1で敗れ、開幕から1勝2敗と勝ち点を積み上げきれていない。

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 さらに言えば、3試合で1点しか奪えていない。勝つためにはゴールを奪う必要があるのは明らかで、それはどんな試合でも不変なサッカーの本質である。また、ゴールを決められるのは、往往にして「相手」の想定を上回ったときであることも確かだ。

 では、いかに相手を超えていくか。ゴールを決めるには、そこまでの過程も重要になる。センターバックでありながら日本の攻撃の起点にもなるDF冨安健洋は、ゴールを奪うまでのプロセスに不足している点があると指摘する。

「まずは全選手が『今、誰がフリーなのか』を感じる必要があると思います。相手のシステムをしっかりと判断材料として持って、相手のシステムから必然的に誰がフリーになるのかを選手全員が共有しないといけないと思いますし、それがわかったうえでどうボールを動かすか、どうやって彼(フリーの選手)にボールを持っていくかを全選手で共有しないといけないと思います」

 サウジアラビア戦を例に挙げると、冨安から見えていた景色は次のようなものだった。

「センターバックがボール持ったとき、(相手が)明らかに(遠藤)航くんのところを消しにきているのは感じていました。でも、システム上は航くんが空いてたので、スペインがよくやるような8番や6番(2列目中央の選手、スペインの場合は4-1-2-3の「2」にあたるインサイドハーフ)を使った形で航くんにどう(ボールを)当てるかとか、サイドバックに預けて、サイドバックから(パスを遠藤に)入れてもらうかとか、そういうところ(のイメージを共有しなければならない)。今、誰がフリーで、フリーな選手にどうボールを届けるかは、僕も含めてまだまだやっていく必要があると思っています」

 サウジアラビアの基本システムは4-2-3-1で、それに対し同じく4-2-3-1の日本は中盤がダブルボランチ+トップ下で構成される。つまりシステム上は正三角形が正面から噛み合うような形になり、相手のトップ下1人に対してボランチ2人で数的優位を作れるため、ビルドアップ時に遠藤がフリーになりやすい状況だった。

 しかし、ボランチの相方である柴崎がサイドに流れながらプレーに絡むことも多く、遠藤は中央でやや孤立気味となり、「消しにくる」相手の狙いをかわしづらい状況も発生。こうした試合の流れのなかで起こる微妙な変化をどう捉え、どう上回っていくかの意識をチーム全体が統一する必要がある。

 一方、MF遠藤航はサウジアラビア戦後の取材のなかで日本代表が準備していたゲームプランと実際の試合展開について、次のように分析していた。

「中盤は、相手のトップ下とダブルボランチに対して(鎌田)大地(=トップ下)と僕と(柴崎)岳(=ダブルボランチ)で見るような形を取っていて、特に相手のゴールキックやセンターバックに対してはサコくん(大迫勇也)が真ん中に立って、(浅野)拓磨(=右ウィング)と(南野)拓実(=左ウィング)がパスを出された方の相手センターバックに外側から(プレッシャーにいくようなシーンは作っていきたいというのはありました。

けど、時間が経つにつれてそこ(浅野と南野)が相手のサイドバックに引っ張られすぎてしまって、センターバックに行けなくなったのに加えて、相手のウィングが中に入ってきてたので、ちょっとミスマッチになったというか。岳と大地が相手のダブルボランチを抑えるところの両脇が空いてきたので、岳と僕はボランチと中に入ってきた選手(同サイドのウィング)を両方抑えながらになって、相手はそこでミスマッチをうまく作っていたかなと思います」

 冨安と視点は違い守備について語っているが、攻守は表裏一体。相手のゲームプランによって守備で不利な状態を作られ、ボールを奪って攻撃に移ろうとしたときに、想定していた形にならない。プラン通りの守備ができていれば、システムの噛み合わせのうえでは攻撃時に遠藤がフリーになっていたはずだが、そうはならなかった。

 日本代表にゲームプラン外のことが起きた時の対処法や修正のための選択肢があったか。事前準備の段階で、想定外の流れになった際に全員が意思統一して問題を解決するための手段を用意できていたのか。冨安や遠藤が不足を感じているのはそこだ。

 彼らよりも後ろで試合に参加していたGK権田修一も、サウジアラビア戦の反省を語っていた。

「サウジアラビア戦に関していえば、焦ってミスが増え出したかというと、そうではないのかなと僕は捉えていて。点が取れなくて焦れたというより、前半から距離感があまりよくなかったのかなと。日本のピンチはボールロストしたところから攻め込まれるのがほとんどで、相手が後ろ(ディフェンスライン)からビルドアップをして、そこから何本も(パスを)つながれて数的優位を作られた形はほとんどなかったと思うんですね。

そういう意味では、前半のマイボールで握れた時から、なんとなくボールを持てている感じはあるけど、チャンスもできていたかもしれないですけど、あまり気持ちよく(パスを)回せていなかったというか。このレベルになってくると、焦りどうこうよりも前半からなかなかうまくいかないところを修正できないでいると、ああいう(ミスが重なった)形で失点してしまう」

 攻撃がうまくいかずに不用意なボールロストを繰り返すと、そこからの守備に破綻をきたし、守備で狙った形がハマらなければ、相手の弱点を効果的に狙うような攻撃には移れない。シームレスにつながった現代サッカーの攻守両面をどう捉え、複数のプランを準備できるかでチーム力が試される。試合中に修正するにしても、何の用意もなければ11人の意思統一を図るのは難しい。

 では、どうやってチームとして柔軟な戦い方を身につけていくべきか。遠藤は地道な積み重ねが必要だと説く。月に一度、短期間しか集まれない代表チームでも、やれることはもっとあるはずだ。

「監督がどういう守備をしたいのかという戦術などを提示をしてくれるので、まずはそれをしっかりと把握するのがチームとしては大事な部分。それに加え、1つのシチュエーションだけじゃなくて、『こうなったらどうするのか』というのは、選手から監督に対して言うこともある。

その監督のやりたいサッカーや、どうやるかというベースの落とし込みをチームとして共有してトライしていくか。その中でミスマッチが起きた時に、もちろん選手たちが(ピッチの)中で話もするし、そこからもう一度ハーフタイムが終わった時に監督の指示があればそれを実行していく、その繰り返しだと思います。それは試合だけじゃなくて、普段の練習からそうです」

 この遠藤の言葉通り、サウジアラビアから帰国して初めてピッチに出た9日の練習後、6人の主力が身振り手振りをまじえて活発に意見を交わす姿があった。遠藤に冨安、吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹、そして南野拓実。サウジアラビア戦に先発したディフェンスライン全員に中盤の要と背番号10を加えた首脳会談は約10分に及んだ。

 9日の練習は権田を除くサウジアラビア戦の先発メンバーとそれ以外の選手たち、2つのグループに分かれてリカバリー中心のメニューとなった。

 チーム全体で本格的な戦術練習ができるのは10日と11日のみ。残り2回の練習とミーティングで選手たちの抱える課題意識がどれほど改善され、オーストラリア戦に向けてどんな設計図が描かれるか注目したい。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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