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田中碧「この試合が終わって引退してもと思えるくらい…」。日本代表の大一番で大仕事、胸に秘めていた決死の覚悟【W杯アジア最終予選】

text by 編集部 photo by Shinya Tanaka

田中碧
【写真:田中伸弥】



 日本代表は12日、カタールワールドカップのアジア最終予選でオーストラリア代表に2-1の勝利を収めた。

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「正直、僕の人生の中でこれ以上緊張することはないだろうなというくらい。責任もそうですし、日本サッカーの進退もかかっていた試合でもあるので、この試合が終わって引退してもいいやと思えるくらい後悔のない試合にしたいと思っていました」

 最終予選開幕から3試合で1勝2敗。負けたらワールドカップ出場の可能性が消えてしまいかねない一戦で先発メンバーに抜てきされたMF田中碧は、このオーストラリア戦が持つ意味の重さを理解し、並々ならぬ覚悟を胸に秘めてピッチに立っていた。

 田中は2019年に国内組のみで臨んだEAFF E-1サッカー選手権でA代表デビューを飾っているが、海外組もいる日本代表に選ばれるのは今回が初めて。実質的に初招集という立場ながら、「トレーニングでも非常に存在感がある良いプレーをしてくれていた」と森保一監督の信頼をつかんで背水の陣で挑んだオーストラリア戦に先発起用された。

「緊張、ないわけないですよね、この舞台で(笑)。こんな日本サッカーの大一番で、自分が(実質)初招集で、やっていない選手もいる中で初先発(※実際は日本代表で3試合目の先発出場)。自分より素晴らしい選手もいる中で、本当に限られた選手しか立てない舞台に立たせてもらった。

今までもこれからも、これ以上の舞台はないと思っているので、本当に緊張はしましたけれど、やることはやっぱ変わらない。もちろん結果論で勝ってよかったですけど、正直(結果が)悪くてもよくても自分の力を出すこと、ダメだったらダメでしょうがないし、そのくらいの覚悟を持ってやっていましたし、自分の全力は出せたかなと思います」

 東京五輪で世界の強豪チーム相手にも堂々たるゲームメイクを披露していた田中でさえ、過去に経験のないほどの緊張を感じたという。負けたら日本サッカーの未来が暗いものになりかねないというプレッシャーの重さは計り知れない。「まず勝てたことにホッとしているし、そこが一番」というのは偽りなき本音だろう。

 終盤には足をつる寸前まで力を出しきった。86分に日本が2-1と勝ち越した直後、森保監督はベンチからMF柴崎岳らに指示を出してシステムを4-3-3から4-2-3-1に変更。そのタイミングで田中は中盤から前線に移って最後まで走りきったが、「自分の全力を1秒1秒出し続けることが、自分の力的にも必要だと思っていたので。100%を出さないと通用しない相手ですし、そういう意味では最初から飛ばしていました」という田中の身体にはほとんどエネルギーが残されていなかった。

 序盤の8分には値千金の先制ゴールを奪い、中盤では盛んに周りに指示を出しながらビルドアップからチャンスメイクまで幅広く貢献。“初招集”で“初先発”とは思えないプレーぶりで、「選んでもらったからには勝たないといけなかった。本当に点を取ることだけを考えてプレーしていたので、点を取れてよかった」と責任を全うした。

「素晴らしい先輩たちの経験もすごく大事ですし、そのうえで若い選手たちの勢いも時には必要だと思っているので。僕は勢いでのし上がってきたタイプではないですけど、90分の中ではそういうのを少なからず出していかないといけない。

すごく苦しい状況だったのは間違いないですけど、こうやって少しずつ勝ちを続けることで状況を変えられると思うし、日本サッカーがワールドカップへ行くことが何より重要なので。自分は代表してピッチに立ちましたけど、僕だけでなく、みんなが少しずつそこに向かって進んでいる。

簡単な試合は何ひとつないですし、ワールドカップはもっともっと厳しい舞台だと思っているので、僕自身ももっともっと成長して、引っ張っていく立場になるくらいに力をつけていかなければならないんじゃないかと思っています」

 まさに言葉の通り、田中には日本代表をけん引する立場になってもらわねばならない。

「もっともっと自分・田中碧がいるメリットを存分に出していかないといけない」

「ゲームに対する強度をもっともっとトップレベルに上げていかないといけない」

「もっともっと中盤を制圧していかないといけない」

 安堵と手応えを感じながらも、口を突いて出てくるのは「もっともっと」という成長への意欲ばかり。田中は決死の覚悟で臨んだ試合の中から、今の自分の100%の先へ到達するためのヒントをたくさん見つけていた。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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