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過激なサポーターはどんな人物なのか? 「1312」が意味するもの【サッカー本新刊レビュー:蹴るように読む(5)】

シリーズ:サッカー本大賞 text by 陣野俊史 photo by Getty Images

9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。この新刊レビューコーナーでは、2021年に発売された候補作にふさわしいサッカー本を随時紹介して行きます。


『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』
(カンゼン:刊)
著者:ジェームス・モンタギュー
訳者:田邊雅之
定価:2,750円(本体2,500円+税)
頁数:536頁

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【写真:Getty Images】

 「1312」だ。もう、冒頭からこの魅力的な暗号に惹きつけられる。原著のタイトルでもある。All Cops Are Bastards. 「警察はどいつもこいつもクソ野郎」を意味する英語だが、これをそのまま使うわけにはいかない。だからACABと略す。それだとまだ何のことかわかるので、それを数字に置き換える。「1312」の完成、というわけ。

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 世界中のゴール裏で発煙筒を焚いて、怒号をぶちまけ、それだけではない、スタジアムの外でも、サッカーファンのカルチャーだけではなく、広くサブカルチャーにまで大きな影響を与えてきたのが「ウルトラス」。本書は、世界中にいるウルトラスを取材し、インタビューし、一緒に行動し、痛飲し、泣いて笑った人間が書いた、本物の「ウルトラス」のレポートである。

 クロアチアに始まり、ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジル、イタリア、セルビア、ギリシャ、マケドニア、アルバニア、コソヴォ、ウクライナ、ドイツ、スウェーデン、トルコ、エジプト、北アフリカ、インドネシア、米国と続く果てしない旅の産物だ。ここに挙げた国の、どこでもいい、関心を寄せるサッカーがあれば、本書を買って損はない。

 過激な応援を繰り広げる人間たちが、どんな人なのか、少しでも知りたいと思う人は、手に取ってみるべき。意外なことはたくさん書いてある。たとえば、ウルトラスにとってはじつは種目の違いは問題じゃない、とか。サッカーだろうとバスケットボールだろうと、水泳や女子のバレーボールでも「ユニフォームの色」が同じなら応援の対象になるのだ!

 もちろん著者が回り切れなかった地域のほうが多い。アフリカでは、エジプトと北アフリカのアルジェリアとモロッコが出てくるだけ。中国や日本はどうして登場しないのか、など。いろいろと疑問や注文はある。でもまあ、いい。

 EURO2016の予選、セルビアとアルバニアの試合でドローンを飛ばしてアルバニアの国旗を広げたのが誰の仕業だったのか。エジプトの独裁者だったムバラクが失脚したのち、保守反動の嵐のなか、アル・アハリのウルトラスを創設したアムルが命を懸けてやり遂げようとしたことは何だったのか。読者の胸を熱くする事実の数々は、本書の真骨頂だろう。

(文:陣野俊史)


陣野俊史(じんの・としふみ)
1961年生まれ。文芸批評家、作家、フランス語圏文学研究者。現在、立教大学大学院特任教授。サッカーに関わる著書は、『フットボール・エクスプロージョン!』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)、『サッカーと人種差別』(文春新書)、共訳書に『ジダン』(白水社)、『フーリガンの社会学』(文庫クセジュ)。V・ファーレン長崎を遠くから応援する日々。

【了】

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