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ポルトガル代表を悩ませた“細身のジダン”。モロッコ代表の合理的な戦い方とは?【カタールW杯】

シリーズ:分析コラム text by 西部謙司 photo by Getty Images

ポルトガル代表は“当たった相手が悪かった”



 スイス代表に大勝したポルトガル代表は同じメンバーを組んだ。モロッコ代表の守備はミドルゾーンからなので、その手前ではボールを持てる。CBルベン・ディアスは足裏でボールを踏みつけて全体を見渡し、序盤は相手の出方を確認していた。10分ほどの様子見を終えると、相手の浅いディフェンスラインの裏を狙ったロングボールを主力のアプローチとすることに決める。

 しかし、この攻め込みルートはあまり機能しなかった。クリアを拾ってのジョアン・フェリックスのシュートはあったが、ロングパスが流れてしまう場面もあり、メインの受け手であるジョアン・フェリックスも対面のアクラフ・ハキミを突破しきれない。

 中盤をスキップした攻撃が多いため、チームの心臓であるベルナルド・シルバ、ブルーノ・フェルナンデスを経由することが少なく、必然的にリズムが出なかった。ロングパス後のハイプレスを外されてしまっていたのも計算外だったろう。

 後半からは相手の隙間に立つ選手の足下へ縦パスを入れて圧縮させてから外す、ポルトガル代表らしい運び方に変えてみたが、モロッコ代表の圧縮のほうが速くて引っかかってしまう。

 後半開始から6分、ボランチのルベン・ネベスに代えてクリスティアーノ・ロナウドを投入、左SBラファエル・ゲレイロもジョアン・カンセロへ交代。システムを4-4-2として攻撃にリソースを注ぎ込む。その圧力にモロッコ代表の守備ブロックは徐々に下がり始め、ポルトガル代表らしい細かいパスワークからの攻撃がようやく増えていく。

 さらにラファエル・レオン、リカルド・オルタの突破型アタッカーも投入して総攻撃。終盤はペペ、ルベン・ディアスも上げてのハイクロスによるパワープレーとやれることは全部やった。しかし、攻勢をかけながらもモロッコ代表のカウンターアタックにも悩まされ続け、1-0のままタイムアップとなった。

 完成度の高い今回のポルトガル代表は初優勝を狙える力を持っていたが、モロッコ代表はそれをわずかだが上回っていた。大会前の下馬評からいえばおかしな言い方になるかもしれないが、今回は当たった相手が悪かった。

(文:西部謙司)

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