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【ニューカッスルの快進撃エピソード0】「クラブから出て行け!」嫌われ者、応援ボイコット、降格…。苦境に現れた1人の女性

シリーズ:ニューカッスルの快進撃 text by WASSY photo by Getty Images

空中分解。監督の不満とサポーターの抗議



 そのためアシュリーも、当初は救いの手を差し伸べる存在として好意的に受け入れられていた。マッチデーには自らスタンドに姿を現し、自身のネームがプリントされたユニフォームに身を包んでファンと交流する様子がカメラにも度々捕らえられている。アイコン的存在だったシアラーこそ引退していたものの、マイケル・オーウェンやオバフェミ・マルティンス、アラン・スミスなどビッグクラブから獲得した名手も多数在籍しており、新体制で迎えるシーズンへの期待感がクラブを取り巻いていた。

 最初の半年は成績の振るわない時期が続いたが、上層部はサム・アラダイス監督に早めに見切りをつけると、クラブのレジェンドであるケヴィン・キーガンの招聘に成功した。キーガンは80年代に選手としてニューカッスルでプレーしただけでなく、90年代には監督としても一時台を築いた名将であり、サポーターのアシュリー人気は増すばかりだった。

 ところが就任から数ヶ月で、クラブから十分な経済的サポートが受けられていないとして、キーガンが経営陣に対する不満を公の場で打ち明けるようになった。その夏の移籍市場で自身の望んでいない選手を無理矢理チームに加えられたことが決め手となり、キーガンは9月上旬に辞任を決断。彼は後に、ロンドンのホテルで選手のYoutube動画を確認させられ、拒否したにもかかわらず獲得が強行されたことを明かしている。アイドル的存在であったキーガンの言葉に煽られたファンは、スタジアムの前で抗議活動を始めた。

 状況を重くみたアシュリーがクラブを売却することを発表し、いくつかの団体や資本家と交渉を始めたのは、買収から僅か1年後の2008年のことだった。この時、まさか2021年まで彼がクラブオーナーの椅子に座り続けると想像した者は誰一人いなかっただろう。

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