フットボール批評オンライン

「ドリブルのミスは成功の布石」松井大輔だからこそ分かる久保建英の技術。一瞬生まれた3つ目の選択肢「久保は見逃しません」

シリーズ:松井大輔のドリブル分析 text by 松井大輔 photo by Getty Images

松井大輔の成功例「さまざまな布石を打ってきた」



 ミスだからと切り捨てるのは、もったいないことです。久保の大きめタッチには、右や左だけでなく真ん中へ運ぶのも選択肢のひとつになるという発見があります。そういった発見は自身のイマジネーションを高め、ゆくゆくは自身のプレーの幅を広げることにもつながります。

 実際に、海外にはボールタッチの大小を使い分けて相手を誘い出す選手がいます。日本では相手に奪われるリスクが高いと判断され、あまり好まれるプレーではありません。ですが、それを武器とする選手は自身のスピードとボールの距離感をよく理解しています。おそらく、小さい頃から試しながら磨きをかけて、自身の技まで昇華させたのでしょう。

 加えて言えることは、ミスプレーも90分間の1試合を通してみると、成功の布石になる可能性があるということです。どんなにスピードに長けた選手でも毎回同じように縦方向への突破を仕掛けていれば、相手に読まれて対応されてしまいます。多くのプレー選択肢を持っているように見せて、相手を惑わすことが必要になるのです。それには時間を要することがあります。

 実際に僕も1試合のなかでどうやって相手に勝つかと考えながら、90分間でさまざまな布石を打っていました。その成功例がFIFAワールドカップ南アフリカ大会のカメルーン代表戦で、最終的には1対1で勝って本田圭佑のゴールへつながるクロスを供給できました。まさに、あのクロスは90分間をかけて相手に勝った証でした。

 このようにミスをミスで終わらせないようにすることこそが、サッカーという競技では重要になることのひとつだと考えています。

(分析:松井大輔、構成:川原宏樹)

プロフィール:松井大輔(まつい・だいすけ)

1981年生まれ、京都府出身。鹿児島実業高校から京都パープルサンガ(現京都サンガ)に加入。2004年に渡ったフランスではル・マン、サンテティエンヌ、グルノーブル、ディジョンに在籍し、ロシア、ブルガリア、ポーランド、ベトナムでもプレー。14年からはジュビロ磐田、18年からは横浜FC、21年10月にY.S.C.C.横浜フットサルに加入して22年からはフットサルとの二刀流で活躍。04年のアテネ五輪、10年の南アフリカW杯、11年のアジア杯にそれぞれ出場。23年限りで現役を引退した。

【関連記事】
【特集:松井大輔のドリブル分析】伊東純也は「習性を利用して…」スピードだけではない、「1対1を仕掛ける」技術
【特集:松井大輔のドリブル分析】三笘薫は「プレ動作」が違う。「勝てる立ち位置まで相手を誘導する」ボールの触り方
【特集:松井大輔のドリブル分析】「そんな指示はオシム監督だけでした」ドリブラーの能力を最大化する味方の演出方法

1 2 3 4 5

KANZENからのお知らせ

scroll top