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「そんな指示はオシム監督だけでした」ドリブラーの能力を最大化する味方の演出方法【特集:松井大輔のドリブル分析】

シリーズ:松井大輔のドリブル分析 text by 松井大輔 photo by Getty Images

三笘薫のドリブルが「分かっていても止められない」理由



 こういったディフェンスの習性も利用して、三笘は相手に体すら触れさせないように取り組んでいます。日に日にインテンシティが高まっていき、フィジカル重視が強まっている昨今の潮流のなかでも、三笘がドリブルで抜ききれる理由の一端がこういった工夫に隠れています。

 このような細かな工夫に目を凝らすと、ドリブル突破の基本を見落としがちになります。これは三笘本人も語っていたのですが、仕掛けるときはプレーの選択肢を複数つくっておくことが大切ということです。

 単純に1対1でいえば、右にも左にも行ける状態をつくっておかなければなりません。時に股下などの正面というパターンはあるにしても、極論をいえばドリブルは右に行くか左に行くかの二択になります。その片方の選択肢がなければ、相手と対峙したときにどうなるかは容易に想像がつきますよね。

 もちろん、サッカーのプレーはドリブルだけではありません。パスもあれば、シュートもあります。三笘が左サイドでボールを受けたときには、ドリブル以外にもクロスという選択肢を用意しています。その選択肢を準備していなければ、相手を抜けません。だから、三笘は1試合を通してさまざまなことにトライしてプレーの幅を見せます。それが、いわゆる相手との駆け引きになるのです。

 また、選択肢を多く用意しておけば、自分が得意とする型やエリアが相手にバレていても、さほど問題にはなりません。相手は抜き方がわかっていても、複数の選択肢によって結局は迷うのです。テクニックを磨くことも大事ですが、なぜ相手が釣られるのかという本質は絶対に忘れないようにしましょう。

 プレーの選択肢を複数つくることの大切さについて言及しましたが、選択肢を増やすためには味方の協力が不可欠です。わかりやすく例示すると、味方のポジショニングがよくなければパスコースはつくれません。ドリブルを仕掛ける場合でいえば、抜け出すスペースを味方が埋めてしまっていては選択肢が減ってしまいます。

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