「松澤劇場」開演の陰にあったライバルの存在
そんな嫌な流れを変えたのが、65分にピッチに立った松澤海斗だった。左サイドを主戦場とする生粋のドリブラーは「数的不利でも、自分が1枚かわせばチャンスになる。どんどん仕掛けようと思っていました」と前だけを向き、果敢に仕掛けていく。
負傷により一時離脱していた松澤は、第14節・カターレ富山戦で復帰したばかり。ピーススタジアムのピッチは久しぶりだった。
「復帰明け初のホームで、めちゃくちゃ楽しみでした」
圧巻の局面打開力に、相手はカバーの選手を含めて2人で対応してくる。それでも仕掛ける意識は薄れず、深い位置まで運ぶ。その姿勢に、小雨のなかピーススタジアムを訪れた13,000人以上のサポーターも呼応する。松澤がボールを持つと、一気にスタンドのボルテージが上がる。久しぶりの「松澤劇場」が開演し、再び長崎がペースを握る。
最終盤のCKではGK後藤雅明までゴール前に上がり、リスクを承知で得点だけを目指した。ついに報われたのは90+8分。途中出場の山﨑凌吾が倒されてPKを得ると、山﨑自らが冷静に決め、直後に試合終了の笛。引き分けという結果ではあったものの、1点ビハインドかつ数的不利の状況に抗い、最後まで攻め続けて得た勝ち点1だった。
試合後、この試合出色の出来だった松澤がミックスゾーンに姿を現すと、多くのメディアがマイクやカメラを向けた。その中で復帰までの期間に強化したポイントを問うと、松澤は同じ左WGのライバルの名前を挙げた。
「1番は同じポジションの(笠柳)翼が同じ怪我の期間で、翼のおかげで強くなって戻ってこられたと思います」
第6節・ブラウブリッツ秋田戦での途中出場以降一時ピッチから離れた松澤と、第4節・ベガルタ仙台戦で右小趾基節骨骨折を負い手術を受けた笠柳は、同じトレーナーのもとでリハビリに取り組んできた。