
浦和レッズでプレーする安部裕葵【写真:Getty Images】
大きな期待を背負ってバルセロナへと渡った安部裕葵。その前途には輝かしい未来が広がっていたが、度重なる負傷により実力を発揮できぬまま日本へと舞い戻った。浦和レッズ加入後もなかなかコンディションが戻せず、苦難の時期を過ごしていた。だが、風向きはいま、変わりつつある。(取材・文:河治良幸)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域リーグラウンドEAST第17節
浦和レッズ 0-0(PK:9-10)FC東京
埼玉スタジアム2002
途中出場から存在感を放った安部裕葵

完全復活が期待される安部裕葵【写真:Getty Images】
田中達也体制になってから4連勝と勢いに乗っていた浦和レッズは、明治安田J1百年構想リーグEAST2位のFC東京をホームに迎えたが、これまでのように主導権を握り切れなかった。
前半から守備強度と前からの圧力が強いFC東京に押し込まれる時間が続き、浦和は単発的にチャンスはあったものの、なかなか自分たちのリズムでボールを動かせない。
田中監督は後半頭からFW小森飛絢とともに、安部裕葵を左サイドに投入。高い位置からの守備とアタッカーの仕掛けにより、かなり押し戻すことに成功したが、試合は最後まで拮抗。PK戦の末に敗れた。
勝利という結果は得られなかったが、後半から投入された安部の存在感は際立っていた。
左サイドでボールを受けた瞬間の独特な間合い。止まった状態から一気に加速するドリブル。外へ行くと見せながら内側へ潜り込む駆け引き。浦和が押し返し始めた時間帯には、安部の仕掛けがFC東京守備陣を揺さぶる場面が何度もあった。
本人も「僕の場合、仕掛けるよって言って、仕掛けなくても、ああいうタイミングで来るタイプなので」と語るように、単純な突破だけでなく、“仕掛ける空気”そのものを武器にしている。
相手DFに迷いを与え、重心をずらした瞬間に加速する感覚について、「ああいうのは全然、身体的には大丈夫でしたね」と話した言葉には、コンディション面の確かな前進もうかがえた。
浦和加入後の安部は、決して順風満帆ではなかった。
「ドリブルするのが怖かった」

バルセロナ時代の安部裕葵【写真:Getty Images】
鹿島アントラーズで大きな期待を集め、若くして FCバルセロナを挑戦の場に選んだが、Bチームからトップ昇格への道なかばで度重なる負傷に苦み、栄光の扉は閉ざされた。
挑戦どころか、プレーしたくてもできない時間が長く続き、2023年の浦和レッズに加入後もリハビリからスタートし、試合勘よりも、まずは体を思い切り動かせる状態へ戻すことがテーマだった。
最大の武器だったドリブルには、本人の中でも無意識のブレーキがかかっていたという。
「怪我してたので、ドリブルするのが怖かったってのもあるしで、なかなか練習からトライする機会がなかった」と明かした安部。怪我の記憶はプレー選択にも影響していたようだ。
さらに言えば、前体制ではテンポよくボールを動かすスタイルが求められていた。安部も「前の監督はあまりそれを好まないタイプだったので、ずっと2タッチとかでやっていた。それがちょっと染み付いちゃっている」と打ち明ける。
シーズン途中から指揮を執る田中達也監督の下、安部は再び自分の武器と向き合い始めた。
「2週間前くらいから、練習でも前にスタメンで出た試合も振り返って。リスクを負わなさ過ぎたので、ドリブルとかはしていこうかなって」と安部。そう意識を変え始めたことで、まるで一度は錆びた刀を研ぎ直すように、プレーにも少しずつ変化が出てきた。
その変化を首脳陣が評価してくれていることも、安部の自信につながっている。
「それはなかなかしんどいですよね」

浦和レッズで指揮を執る田中達也監督【写真:Getty Images】
「監督なり、コーチとかがいいねって言ってくれたり、そういうのもあって。今日は(左の)ワイドで出たりしたんだと思います」
田中監督体制になり、浦和は立ち位置や距離感が整理され、攻撃にも流動性が生まれている。そこから局面をひとりで変えられる安部の価値は、より大きくなっているのだ。
強度の高いFC東京を相手にしても、彼の特長は表れていた。後半、松尾佑介が投入されてから浦和はさらに押し返す時間を増やしたが、安部はその中で見えてきた課題についても冷静に言及している。
「自陣から相手コートに入ってプレーが終わるまでが速すぎて、ゴール前まで間に合わないですね」
さらに「カウンターがちょっとロングすぎる。80mくらいのカウンターになっているんで、それはなかなかしんどいですよね」と続けた。
プレー時間が伸び、自信を取り戻したからか、これまで少し遠慮がちだったチームの課題に関する言動もオープンになった印象を受ける。
安部の言葉には、現在の浦和が上位相手に勝ち切るためのヒントが詰まっている。速攻そのものは悪くない。しかし、速すぎることで前線の人数が足りず、押し上げも追いつかない。
「10回あって1回くらい入るぐらいだと思うので、他の9回はかなりしんどいことになる」と安部。だからこそ必要なのは「どこかで止まるか。キープするか」というプレーのギアチェンジだ。