だからこそネイマール招集は驚きだった
FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)が幕を開けた。日本代表はもちろんのこと、いわゆる強豪国と称されるチームのパフォーマンスにも期待が集まる。そこで今回は、各国のサッカーの歴史や戦術に詳しい西部謙司氏に、北中米W杯における注目国について分析してもらった。ブラジル代表編をお届けする。(文:西部謙司)[2/2ページ]
だからこそネイマール招集は驚きだった
広義のタベーラやティキ・タカが消滅へ向かったきっかけは対戦相手の撤退守備だ。
中盤でボールを奪おうとすればするほど傷は深くなると悟った対戦相手は、バスを停車するように守備を固めるようになった。相手がプレッシングを諦めたために、ブラジルとスペインのパスワークの威力も半減してしまった。
封じられたのではなく、披露する舞台が撤去されてしまったわけだ。舞台がなくなったので演者も減っていった。
ただ、スペインにはまだティキ・タカの香りが残っている。代表の中心選手たちがバルセロナ所属だからだろう。
一方、選手が欧州に四散しているブラジル代表にはベースになるものがない。かつてあったブラジルらしさはすでに失われている。
選手がすっかり欧州化している以上、それに合った新たな基準が必要だ。だから「世界基準の再構築」なのだ。
アンチェロッティ監督のアプローチは、守備型の選手を集めて堅固に守り、ヴィニシウスの突破力を活かしたカウンターアタックを仕掛けること。イタリア人監督らしい割り切った現実主義である。レアル・マドリードでもこれで結果を出してきた。
それだけに土壇場でネイマールを招集したのは驚きだった。
ネイマールはザガロが言うところの「監督の指示など必要としない選手」だ。そして広義のタベーラ、ブラジルらしさの名手。するすると相手守備者の隙間に入り込み、ドリブルですり抜け、パスで攪乱し、収縮する相手を束にして置き去りにする。前回大会のクロアチア戦での得点はブラジルサッカーの伝統そのものだった。
しかし、CBFはすでにこの路線を放棄している。
ネイマールに居場所はあるのか
フェルナンド・ジニス監督をわずか6試合で更迭してしまった。アンチェロッティとの交渉を前提とした暫定監督ではあったが、ジニスは伝統復活への最後のカードだった。
フルミネンセを率いてリベルタドーレス杯を制したジニス監督は欧州とは一線を画したプレースタイルを披露していた。フットサルのような狭小突破。「ジニス主義」と呼ばれ、自身は「反グアルディオラ」と言っていた。
欧州を支配する構造主義、ポジショナルプレーと対極なので、「反グアルディオラ」なのだが、バルセロナを率いていたグアルディオラのサッカーとはよく似ている。ティキ・タカと同種の、つまりブラジルらしさを追求したスタイルである。
だが、ジニスは結果を出せなかった。すでにブラジルはブラジルではなくなっていた。ジニスを諦め、伝統を諦めたはずなのに、なぜネイマールなのか。
国民の声を無視できなかったのか、それとも何か別の考えがあるのか。現在のセレソンに、伝統のブラジルらしさの権化であるネイマールの居場所はなさそうに思える。
しかし、もし新しいブラジルにネイマールというスパイスを効かせることに成功するなら、面白いものが見られるかもしれないという期待はある。
もう本当に、髪の毛1本ほどの期待ではあるけれども。
(文:西部謙司)
【著者プロフィール:西部謙司】
1962年9月27日生まれ、東京都出身。学研『ストライカー』の編集記者を経て、02年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、ヨーロッパサッカーを中心に取材。現在は千葉市に住み、ジェフ千葉のファンを自認し、WEBスポーツナビゲションでは「犬の生活」を連載中。サッカーダイジェスト、フットボリスタなどにコラムを執筆中。『ちょいテク 超一流プレーヤーから学ぶちょっとスペシャルなワザ』監修(カンゼン)、「サッカー右翼サッカー左翼」(カンゼン)、近著に『戦術リストランテⅣ』(ソル・メディア)、「ゴールへのルート」(Gakken) 、共著の『サッカー日本代表の戦術が誰でも簡単に分かるようになる本』(マイナビ)、『FCバルセロナ』(ちくま新書)がある。
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