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スペクタクル・ビルバオの神秘【欧州サッカー批評 6】

text by 西部謙司 photo by Kazuhito Yamada

水と油のバスクとの化学反応

「僕がいた3年間は、主にホアキン・カパロス監督の時代で、それこそひどいサッカーでした(笑)。試合を見るのが苦痛でしたから。ただ、ビルバオの育成までもが蹴って走るサッカーだったわけではないんです」

 ビルバオの育成部長にアモルトゥという〝アヤックス好き〟が就任した時期、育成チームのすべてに3-4-3システムを強制した。結果は、現場の反発もあって挫折してしまうのだが、その時期に育ったのがジョレンテやスサエタといった、現在のチームの中核メンバーだった。「ビルバオは地域の上手い子を集めているので、育成でつなごうと思えばつなげるんです。ところが、トップチームがそういうサッカーになっていませんでした。結局、何でもできる選手を作ろうとして上手くいかない。ジョレンテらの世代は伸びましたけど、その後はまた元の育成のやり方に戻ってしまっていたので、4~5年後には相当まずいことになると皆が思い始めたんです。そのときに、大人のサッカーを変えられる監督としてビエルサしかないという結論になった」

 現在は、辛うじてビエルサ監督のサッカーを実現できるかもしれない選手がいる。しかし、近い将来は危ない。そこでまずトップチームでつなぐサッカーを確立して、同時に育成もベクトルを合わせて将来につなげようというプロジェクトである。

 ただし、前記したようにビルバオの文化にパスサッカーはなかった。ビエルサをもってしても、それを導入できるのか、バスク人が受け入れるのか、何よりも選手に実現する力があるのか、いくつかのハードルがあったわけだ。
「選手もファンも無理だと思っていました。大人になって急に上手くなるわけがない、パスサッカーなんて子どものころから仕込んでいなければできないと考えていた。自分たちのスタイルは変えられないと思いこんでいたんです。ところが、ビエルサが来て数ヶ月でやってしまった。それで一気に期待感が膨らんで、いまやビエルサ監督の人気は選手以上です。街の考え方まで変えてしまった」

 ポゼッションサッカーは、才能ある選手なしにはできない。そうしたいわば“常識”をビエルサは覆してみせた。

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