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戸田和幸という生き方(前編)

text by 大泉実成 photo by editorial staff

がむしゃらに、泥臭く、しかし同時にクレバーに…

──そこから出られたのはユースの経験もあった。

戸田 それまでの自分じゃダメだってことですよね。もっとがむしゃらさだとか、それから高校でパスサッカーをやってて足先のプレーが多くなっている気がしたので、そういう部分を変えていくとか。

 ディフェンスひとつとっても、それまでのよせとか立ち方じゃあ全然かなわないというときに、どうすればいいんだろうというのを延々と考え続けましたね。もっと単純に、がむしゃらに、そして泥臭く行くのが自分には必要なんじゃないか。

 そういうことを自分の中できちんと整理して取り組めるようになるには結構時間がかかりましたよ。初めは全くわかんないですからね。

 つまるとこ自分で悩んだりあせったりして考えてやっていくしかないんですよ。そういう経験があって、対処の方法がわかったりとか、考える道筋ができたりとか、そのためには人生のどっかで死ぬほど悩んだり考えたりする必要があるんでしょうね。

──高校のときも一回自分のサッカーを作り直されたわけですよね。

戸田 常に作り直す人生ですね。そのままの自分で行けたためしがないんですよ、どのカテゴリーでも(笑)。だからいつも工夫したり考えたりっていうのが、自分の根幹にある。

 ここまできて、われわれはようやくあの馴染み深い戸田のプレースタイルと出会う。がむしゃらに、泥臭く、しかし同時にクレバーに。おそらく、ワールドユースから1999年の清水のステージ優勝、そして2002年のワールドカップにおける活躍までの5年間は、戸田のプロサッカー選手としての可能性が最大限に引き出された時期だったのだろう。

 そこには、常に上を見て上の人間に追いつこうともがく強烈な上昇志向と、出口の見えない闇に放り込まれても生き残りのための方法にたどり着くサバイバル能力、自分が何をすべきかを考え続け、それを整理し探し当てることのできるクレバーさ、一度方向が決まれば、徹底してそれまでの自分を作り変えていくことができる柔軟性と自律力があった。

 才能を信じないと言う戸田の、しかしこれらはいずれも大きなストロングポイントであり、まさに才能であった。そしてこうしたストロングポイントがワールドカップで戸田を国民的なヒーローにしたとするなら、その後の8年間の苦闘を作り出す結果になったのも、まさにこれらの戸田の資質だったといえる。

【後編へ続く】

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