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マンUが捨て去った「長期展望」の伝統。モイーズが犯したピッチでの失敗、選手の離心を招いた拙い人心掌握術

text by 山中忍 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Getty Images

ピッチ内外で失敗。選手の離心を招いた人心掌握術

 ところが、モイーズは「新時代」の方向性を示せなかった。慎重派の指揮官が、攻撃サッカーというクラブ伝統のスタイルをそのまま踏襲することはなかった。結果として、モイーズの采配は「消極的」、チームの攻撃は「単調」と非難された。

 かといって、得意とする守備の強化が図られたわけでもない。拙守の好例は2月のフルアム戦(2-2)。ユナイテッドは、対戦時のリーグ最下位に先制され、終盤に逆転しておきながらロスタイムに追いつかれた。

 マン・マネージメントも賢明ではなかったようだ。例えば、発言力のあるリオ・ファーディナンドに対し、古巣で抱えていたフィル・ジャギエルカの映像をCBに求める動きの参考資料として見せたという話がある。

 真実であれば、開幕前には「新監督のためにも優勝を」と言っていたファーディナンドの離心を率先して招くような行為。解雇直前に流れたダニー・ウェルベックの移籍希望説は、ベテラン勢が若手の謀反に目を瞑り始めた証拠だ。

 ファンに関しても同様。モイーズは誠実な人柄で知られる。とはいえ、筆者がユナイテッドファンでも、ホームで地元の宿敵に完敗(0-3)したマンチェスター・シティ戦後、「シティのレベルが目標」との一言を聞いた3月後半の時点で幻滅していただろう。

 その翌月、更迭に踏み切ったユナイテッドは、「生ける伝説」のライアン・ギグスを選手兼コーチから暫定監督に昇格させつつ、正監督選びに取りかかる。

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