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【連載】サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』<第八話>新監督で始動しても止まらぬ連敗街道。思い悩む銀星倶楽部社長が注目した北関東のクラブ、鹿島N.W.O.とは?

【第八話】黄昏の突破口 
Twilight Fracture

 ぼたぼたと重い雨粒が落ちる空の下で、木瀬正親が率いる新チームは始動した。
 はじめに木瀬は、自分が過去に暴力事件を起こして謹慎中の身だったことを選手たちに告白した。来年の一月一日まで八カ月間かぎりの契約であり、ひと月のサラリーが手取りで二五万円に充たないことまで話した。
 とにかくやるしかない立場だ。みんなといっしょに眼の前の仕事にこつこつと取り組みたい――虚栄心も出世欲もあったものではない、邪心を感じさせない淡々とした木瀬の言葉を、選手たちはおとなしく聞いていた。
「客観的に状態を把握してよければ使うし、よくなければよくなるようにケアしていく。全員が戦力だ」木瀬は一人ひとりが自分を見ているか確かめ、あとをつづける。「試合は週に一回か二回しかない。一日いちにちの練習が大事な仕事だと思う。その日が終わったときに、昨日よりも少しだけ成長したと言えるように、シーズンが終わったときに、後悔をしないように、集中して取り組もう」
 前髪、鼻、顎から水が滴るが誰も気にしない。黙々とコートの周囲を走り、記録をとった。コンディションのよくないキャプテン北山はついていけず、列よりもうしろを走り、久米田コーチに付き添われながらほかのメンバーを追いかけた。
 前線でのプレッシング、中盤に戻るプレスバック、カウンターの際に飛び出す一本槍としてのダッシュ。老松が指揮していた過去二カ月のあいだ、サイドハーフのみに重労働を任せた結果、ほかのポジションの運動量は控えめな数値にとどまっていた。先発メンバーのうち、極端にからだがなまっている選手をふるい落とすための作業であり、新しいメンバーを見つけ出すための検査が、初日のフィジカルトレーニングだった。
 どんなスタイルを志そうが、局面ごとの全力疾走はつきものだ。動かないと言われている選手ですら、危険地帯に急がなければならないときは最高のスピードで駆けつける。まして弱いチームなのだから、がんばることを最低線にしないでどうするのか。
 フィジカルが終わったあとは戦術練習をおこなわず、別メニューで調整中の選手ふたりを除いて九対九の紅白戦を延々とつづけた。これまでのファーストチームとセカンドチームを分解、シャッフルして、ただ判断と動作のみに集中させる。フルコートで休みなくハイプレスを実践しなければならず選手はバテたが、木瀬はいっこうにかまわないといった顔つきだ。「効率よく連動すれば疲れも少なくなるんだけどな」とぼやきつつ、バテた状態でプレーをつづけさせた。
 彼の傍らに立つぼくに、木瀬はこのメニューを実施する理由を説く。
「負けて自信を失くしているときにはプレーがちいさくなりがちだ。常にマックスでプレッシャーをかけるようにすれば自然とプレーがダイナミックになるし、自分たちのプレッシングがどこまで巧い相手に有効か、ハードワークが何分持つかということもわかる。攻撃側もそのプレッシャーをかいくぐるために判断を早く、プレーそのものも速くしないといけない。まずは思い切りやることだ」
 どんな斬新な戦術で自分たちを強くしてくれるのかと期待した選手たちは、月曜日から木曜日までをランニングとハイプレスの労働に費やす木瀬に面食らっていた。金曜日、リーグ戦前日の練習も、相手対策は最低限のものでしかなく、セットプレーの確認もコーナーキックに少し手を着けただけだった。

続きは、サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』特設サイトで。

エンダーズ・デッドリードライヴ

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