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Jリーグ 10年前

FC東京の番記者が『河野広貴』をアギーレ・ジャパンに推す本当の理由

text by 後藤勝 photo by Kenzaburo Matsuoka , Getty Images

2年の雌伏で得た進歩

 J1第17節対ベガルタ仙台戦の試合後、[4-3-1-2]の[1]で1ゴール1アシストと結果を残した河野に、代表となる未来を見ているかどうかを訊ねた。答えはこうだった。

「見ていないというか、とにかくチーム、いまはチームのことでいっぱいなので。自分というよりも、とにかくチームが上に行くことを考えているから。それをやってからだと思う。まずはチームのことです」

 代表よりもFC東京のことが心配なわたしにとって、彼の答えは満足すべきものだ。そしてFC東京が上位に進出すれば、周囲は彼を放っておかなくなるだろう。

 マッシモ・フィッカデンティ監督は河野広貴を「純粋なトップ下」だと評している。チーム内の激しい競争を勝ち抜き、先発の座を獲得している背景に、この個性が寄与していることはまちがいない。

 全体の水準が上がると、そこから抜きん出た個でありつづけるのは難しい。目立って見えるには、高い水準のなかでもほかとちがうとわかる、何かがないといけない。

 たとえば1996年のアトランタ五輪、サッカー男子日本代表。あの中で前園真聖だけは「世界に伍してやってくれるかもしれない」という期待を抱かせたはずだ。選手の能力が低いはずの後進国でも、世界と対等以上にやれるタレントがいるのだという事実は、チームメイトや応援にまわるファンをも奮い立たせる。1994年のW杯でブルガリア代表がベスト4にまで躍進できたのは、フリスト・ストイチコフがいたからだ。

FC東京の番記者が『河野広貴』をアギーレ・ジャパンに推す本当の理由
マッシモ・フィッカデンティ監督は河野広貴を「純粋なトップ下」だと評している【写真:松岡健三郎】

 河野には、それがある。

 2012年のACL、一発勝負のラウンド16。アウェイで広州恒大と対戦した東京は、0-1から同点に追い付こうとするものの打開策がなく、84分に河野を投入した。残念ながら得点こそならなかったが、個人技とアイデアでチャンスをつくり出し、「河野ならなんとかしてくれる」といった匂いを醸し出すことはできていた。

 地面をゴリゴリバキバキと叩き割るかのような重心の低いドリブルは日本のレベルを超えている。河野が入団した時点で、そうした武器は石川直宏と彼のふたりだけだった。

 過去の実績からドリブルだけでなく創造性にも信頼がおける存在であることはわかっていたが、パスワークと自己犠牲を主題に掲げるランコ ポポヴィッチ前監督政権下では、ほとんど出場機会がなかった。ときに、紅白戦で用意された河野のポジションはボランチであることもしばしばだった。しかも、同じ左利きの大竹洋平との横ならびで。

 しかしその二年の下積みは、彼の選手としての幅を拡げたようだ。ハードワークすること、ディフェンスのタスクを嫌がらない。精神的にもタフになり、安定した。

 マッシモ・フィッカデンティ監督が浸透させようとしているディフェンスは肉体を酷使するだけでなく頭も使う。河野は4月19日のJ1第8節で、ライバル柿谷曜一朗を擁するセレッソ大阪を迎え撃ったとき、試合当日の朝まで頭が冴えて眠ることができなかった。点を獲ることではなく、守備に頭を使ったのだ。

「朝5時だもん、寝たの。考えすぎて。そんなことは一度もないですけどね、いままで」(河野)

 この試合、河野はチーム一と言っていいくらい激しく走り、中盤の広大なスペースをカバーし、仲間を助けた。河野もまた、トップ下ヨコのスペースを埋めに来る平山のサポートに助けられた。

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