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Jリーグ 10年前

FC東京の番記者が『河野広貴』をアギーレ・ジャパンに推す本当の理由

text by 後藤勝 photo by Kenzaburo Matsuoka , Getty Images

“メキシコ”の時代を超えていけ

 アギーレ監督の日本代表に名を連ねるにはハードワークできることが資格の第一に云々……という意見が頻出することが予想される。語弊を承知で書くなら、そんなものはくそくらえである。現代サッカーでよく走り、よく守るのは、試合に勝つために必須とされる条件にすぎない。それが当たり前にできてなお、浮かび上がる何かが必要なのだ。

 その点、河野はFC東京に移籍してからの2年半で、既によく走りよく守る姿勢を身につけている。90分間保たない? キックオフから前線でハイプレッシャーをかけていれば疲れるのは当たり前だ。脚がつってきたのなら交代すればいい。

 いま河野が頼もしさを増しているのは点を獲ることができるからでもある。彼は前述した対仙台戦の試合後、自身の得点場面についてこうも言っている。

「シュートはファーに向けて打ったものが相手に当たって入ったんですけれども、以前までだったら切り返したりしていたかもしれない。最近ではシュート練習でも(相手が)来ていても打っちゃうし、ゲームも打つようにしている」

 ゴールネットを揺らしたのは、平山から予期せぬ速さで返ってきた高難度のパスを受けてゴール左から左足で振りぬいたもの。当然、角度はない。しかしもし持ち替えていたら利き足とは反対の右足となり、シュートコースは拡がってもシュートの威力は弱まっていたかもしれない。こういうケースでは角度がなくても思いきり振れというのが東京首脳陣の指導だ。河野は伸びた。そして相手に対する脅威となっている。頭を使い、適切な判断を下しながら、ガンガン走って守れるトップ下。チャンスをつくる創造力と技術があるだけでなく、自らゴールを決めることもできる。

 欧州を見れば、前線は高さ、速さ、強さ、巧さといったストロングポイントを活かして個の力で打開しろ、という傾向にあるのは一目瞭然だろう。「守備だけでなく攻撃もコレクティブに」という日本流も悪くはないが、いい加減、勝負に勝てる個を生み出さないといけない時期に来ているのではないか。1968年のメキシコ五輪日本代表は、杉山隆一と釜本邦茂という個の力で得点を挙げていた。50年後のW杯でそれができないのでは、むしろ退化だろう。

 彼には点を獲る仕事を期待したい。誰が監督でもできるはずだ。いまの河野広貴なら。

【了】

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