「23番」ではなく「7番」へ
11月29日付の大衆紙ビルトが最たる例だ。ビルトは、ドルトムントの不調の要因として、「前任者」香川に対する「後継者」香川といった記事を掲載した。
メディアは10-12シーズンの香川を前提とした批評眼で、14-15シーズンの香川に目を向けている。あれだけの活躍をしたのだから、比較されることは仕方の無いことだ。しかし、今の香川は、本当に「昔」に戻る必要があるのだろうか。
香川は「いい意味で忘れる必要がある」と言う。「自分の中にも昔のイメージは残っている」が、その残像は前に進むためには捨て去る必要がある、と。
それは決して昔の自分から逃げている訳ではないし、かつての自分には戻れないという諦めでもない。時間は流れた。チームのメンバーも、ケールを始め、グロスクロイツ、ギュンドアンといった昔の香川を知る者があれば、ロイス、ムヒタリヤン、インモービレといった、今の香川しか知らない者もいる。
そしてブンデスリーガの対戦相手はクロップとドルトムントを研究し尽くして、チームはどん底で喘いでいる。周囲は変わった。であれば、新しいドルトムントの香川を示さなければならない。「23番」ではなく、「7番」としてチームの力にならなくてはならない。
指揮官クロップは連日頭を悩ませ、その様は命が少しずつ削られていくかのようだ。香川も「どうやったら結果を残せるのかっていうのを、やっぱり考える」と自問の日々である。
方法は簡単には見つからない。サッカー選手に限らず、不遇や苦境といった、耐えることを最優先とすべき時期は誰にでもある。香川は、今、そういった時間の中にいる。
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