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ダシに使われたオシム氏。元通訳が見た、代表後任監督をめぐるボスニアと日本メディアによる空砲の撃ち合いと虚報

text by 千田善 photo by Getty Images

「オシム氏が言った」は本当か?

ダシに使われたオシム氏。元通訳が見た、代表後任監督をめぐるボスニアと日本メディアによる空砲の撃ち合いと虚報
「日本代表監督の座をめぐり争うハリルホジッチとスーシッチ」と見出し(ボスニア紙『ドネブニ・リスト』より)

 たくさん例があるが、たとえば2月25日付けのアナトリア通信ボスニア版は「ハリルホジッチとスーシッチ(前ボスニア代表監督)が日本代表監督の座をめぐってライバル関係に」と配信し、そのままラジオ・サラエボのサイトなどに記事が載った。

 これは見出しだけ見れば面白いが、内容は「日本のA社によれば」というもので、ニュースの発信源はボスニアではない。日本サッカー協会の候補者リストに2名とも名前が載っている可能性がある、という観測(憶測)記事。しかも、この2人を「日本で尊敬を集め、その意見が尊重されているオシムが推薦した」と書いてある。

 このサイトの情報をボスニアのほかの新聞が掲載し、それを今度は別の日本のメディアが「ボスニアの日刊紙ドネブニ・アワズによれば」と書く。こうなると、A社の担当記者さんの思いつき(?)だったかもしれない「スーシッチも候補」という事実が一人歩きして、あたかも事実として確定したような印象になる。

 いわば、ボスニアと日本のスポーツ紙や週刊誌が「空砲」を撃ちあっているようなものだ。憶測記事を引用し合うことで、インターネット時代にはすごい速度で誤情報が既成事実化するわけだ。

 迷惑しているのは、この騒ぎに巻き込まれたオシムさんだ。

「ハリルホジッチとスーシッチの2人を推薦」なんてことは、オシムさんは絶対にする人ではない。それは友人にたいして失礼なことだ。

 相談されたらコメントするが、自分からこのうちのどっちかにしたら、2人のどっちでもいい、というタイプのアドバイスをオシムさんがすることはないと断言できる。

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