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クラマー氏が残した哲学とは。教え子・松本育夫氏の回顧録で振り返る「日本サッカーの父」

バイエルン・ミュンヘンが9月18日に発表した訃報は、日本サッカー界にも深い悲しみを与えた。デットマール・クラマーさんの他界。享年90歳。「日本サッカーの父」として長く畏敬の念を抱かれてきたクラマーさんが本当の意味で日本に残した哲学を、最も大きな薫陶を受けた一人、メキシコ五輪銅メダリストの松本育夫さんの回顧録とともに振り返る。

text by 藤江直人 photo by Getty Images

2013年、クラマー氏の哲学が体現された栃木SC

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松本育夫氏【写真:Getty Images】

 2013年シーズンのJリーグ、それもJ2の舞台で、半世紀以上も前に日本サッカー界へ伝えられたクラマーさんの哲学が体現されていたことをご存じだろうか。

 残り10試合となった段階で14位に低迷していた栃木SCは、松田浩監督と南昭吾強化部長を解任。後任の監督に松本育夫取締役、強化部長に上野佳昭シニアアドバイザーを就任させる荒療治に打って出た。

 当時71歳の松本さんはJリーグ史上における最高齢監督となり、同じく73歳だった上野強化部長との合計年齢が144歳に達することが大きな話題を呼んだ。

 しかし、それ以上に注目されるべきは新監督のもとで7勝2分け1敗の成績を残し、最終的には9位でフィニッシュした軌跡となるだろう。白星のなかには優勝したガンバ大阪と真っ向勝負を演じ、激しい闘志と底知れぬスタミナで圧倒。4対2でねじ伏せた快勝も含まれていた。

 鮮やかなV字回復を遂げた理由を、松本さんは独特の熱い口調でこう説明してくれたことがある。

「クラマーさんが僕たちに教えてくれた基本を徹底しただけなんですよ。基本とは何かと言えば、選手の心構え、闘うために必要な条件、そして勝つために必要な戦術ですよ」

 選手の心構えとは、要は「プロとは何ぞやということです」と松本さんは続けた。

「感謝の気持ちをもたない選手はダメです。給料はどこからもらっているのか。自分が一番好きな道で仕事ができていることに24時間感謝しろということ。そう考えれば練習で力を抜くことも、サボることもできない。その姿勢をそのまま試合へもっていけということ」

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