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Jリーグ 9年前

本当の意味での「ウルトラマン」へ。松本山雅のホープ、前田直輝が開花させる“救世主”の力

text by 藤江直人 photo by Getty Images

「ウルトラマン」となった天皇杯3回戦のFK弾

 もっとも、覚悟はしていたが、それでも反町監督に課されるメニューの過酷さは想像をはるかに超越していた。ボールを使うことなく、ひたすら走るだけで終わった開幕前のキャンプでは、一日で走破する距離が10kmを超えることも珍しくなかった。

「なかにはふて腐れながら走っている選手もいたけど、文句を言いながらも明るく楽しくやっていました」

 J1でも屈指のハードワーク軍団の象徴にして心臓をなすMF岩上祐三から、こんな言葉を聞いたことがある。さしずめ前田は「ふて腐れていた」組の一人となるだろうか。

「こんなこと(走ること)をやっていて、本当に必要あるのかなと。きつすぎる、ボールを使わせてくれよと思ったこともありました」

 もっとも、時間の経過とともにこう考えるようになった。

「すべては自分のためだと思ってやるようにしました」

 反町監督の言う「ウルトラマン」には、別の意味も込められていたはずだ。ピンチのときに地上に降り立つ救世主。負けることのない無敵のヒーロー。

 10月10日。Shonan BMWスタジアム平塚で行われた湘南ベルマーレとの天皇杯3回戦で、前田はまさに「ウルトラマン」となった。

 先制点を許してから4分後の前半18分。敵陣で直接フリーキックのチャンスを得るも、松本は右足から正確無比なキックを繰り出す司令塔の岩上をけがで欠いていた。

 ゴールまでの距離は約25m。前田の左足に秘められた破壊力に、チームは期待を託した。MF工藤浩平とDF安藤淳がボールを小さく動かし、その間にFWオビナが囮でボールをまたぐ。

 ベルマーレのGKイ・スホンが体勢をわずかに崩した瞬間に、勢いをつけて走り込んできた前田が左足を振り抜く。地をはうような低い弾道はカーブの軌道を描きながら、イ・スホンが必死に差し出した左手をかすめてゴールの右隅に突き刺さった。

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