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その時、パリでは何が起きていたのか? スタジアムは騒然、街は惨劇…現地記者が見た同時テロの現場

text by 小川由紀子 photo by Yukiko Ogawa

徐々にスタジアム内へと伝わる事件

 さらに後半戦が始まったあと、前の席にいた記者が手すりから身を乗りだして下の階を覗き込み、振り向き様に「いなくなってる」と言ったとき、これは何かある、という感触がさらに濃くなった。

“いなくなっていた誰か”とはVIP、つまりオランド大統領であり、彼が急いでスタジアムを後にしたとなれば、すなわち緊急事態の発生を意味するからだ。

 それでもピッチ上では、前半ロスタイムのジルーの得点に続き、後半投入されたジニャックがヘディングで追加点を押し込んで2-0とフランスが快勝、スタンドの観衆は、ワールドカップ王者を下した選手たちに向かって、トリコロールの国旗を振ってエールを送っていた。

 まったくいつもと変わらない、試合後の風景がそこにはあった。と、そのとき会場にアナウンスが流れる。

『場外で起きたアクシデントにより、東側のゲートは使用できなくなっています。北、南、西を利用してください』

 この時点でも、スタジアム内にパニックは起こらなかった。さっきの爆発音で、車か何かが炎上したのか、くらいにみな思っていたのかもしれない。しかしその頃すでに、プレスルームのモニターにはとんでもない映像が映し出されていた。

 見慣れたパリの路上に人が倒れ、ポリスや救急隊が救助作業にあたっている。
周囲には赤いものが飛び散り、キャスターは「コンサートホールBataclanではライブを観に来ていた観客が人質にとられたままだ」と報じていた。

 同じ頃、選手通路でも選手たちがモニターに釘付けになっていた。彼らもここで初めて、何が起きているかに気づいたのだった。

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