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アジア 8年前

“多文化共生”を体現した豪州U-23代表。五輪出場は逃すも“オリルーズが”示した吉兆

text by 植松久隆 photo by Getty Images

存在感を見せ始めたアフリカ系、アジア系の選手たち

 この大会での数少ない収穫となったDFトーマス・デン(メルボルンV)。飛び級で招集され活躍を見せた18歳は、南スーダン難民の子としてケニアの難民キャンプで生まれ、豪州に難民として受け入られてからサッカーの才能が花開いた。既に所属のメルボルンVでAリーグデビューも果たすなど、将来有望なセンターバックだ。

 ほかにも両親がウガンダ人のジェイソン・ゲリア(メルボルンV)、所属クラブの拒否により最終的に大会に出場できなかった高速ウィングのオウア・マビル(FCミッティラン)も南スーダン難民の出自だ。このように、ここ数年での豪州の年代別代表での“アフリカン・パワー”の台頭は著しい。

 アジア系も負けてはいない。今大会は不完全燃焼に終わったがオリルーズの司令塔MFムスタファ・アミニ(ラナース)は、アフガニスタン人の父を持ち(母はニカラグア人)、実際にアフガニスタン協会からのアプローチもあったと聞く。

 昨年のアジア大会でブレイクしたマッシモ・ルオンゴ(QPR)は、母がインドネシア系。さらには、DFジェイソン・デービッドソン(ハダスフィルド・タウン)は父方の祖母が日本人でいわゆる“日系のクォーター”。

 U-17代表ジョーイズの主将で先日、ブリスベン・ロアとプロ契約を交わしたジョー・カレッティ(加藤カレッティ丈)は、日本人の母を持ついわゆる“ハーフ”だ。このように、アジア系のトップレベルの選手も続々と出てきており、彼らの存在感は年々高まってきている。

 将来のサッカルーズは、今まで以上の“多民族軍”となる。ここまで人種・民族が入り混じった代表チームは、アジアでは他に例を見ない。そうなれば、豪州はアジアで他に類を見ない特殊性を発揮できる。

 将来、アジアの雄として世界の舞台に覇を唱えようとするサッカルーズには、果たして、どれだけ異なる出自や民族的背景を持つ顔ぶれが並ぶのだろうか。

 そして、その中に今大会で涙に濡れたオリルーズのメンバーがどれだけ含まれるのか。彼らの中から一人でも多くの選手がサッカルーズで活躍するようになったとき、ヴィドマー監督の目標未達による今回の背信も「先見の明があった」と育成能力を評価されるようになることで帳消しになるのだろうか。

 本来であれば、夏(南半球の当地は「冬」ではない)の移籍市場での、オージー選手の動向を書くつもりだった。ただ、選手の出入りがギリギリまで活発な動きを見せそうなので、そちらは移籍ウィンドウが閉じた後、Aリーグの近況と併せてあらためて総括できればと思う。

【了】

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