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アジア 8年前

“日本の天敵”ケーヒルは“金の亡者”なのか? 母国の“英雄”に豪州人が抱く両義的な感情

2016年2月、上海申花を電撃退団したオーストラリア代表のティム・ケーヒル。サッカルーズを牽引してきたスター選手ではあるが、上海退団後、母国復帰待望論は盛り上がりをみせなかった。その裏には、“英雄”に対するファンのアンビバレントな感情があった。

text by 植松久隆 photo by Hisataka Uematsu, Getty Images

豪州のスターに突然訪れた構想外通告

オーストラリア代表のティム・ケーヒル
オーストラリア代表のティム・ケーヒル【写真:Hisataka Uematsu】

 36歳になった今もなお、替えの利かない絶対的なエースとしてサッカルーズに君臨するティム・ケーヒル。38歳で迎える2018年のロシアW杯にも、豪州代表として挑むと既に公言。クラブレベルでも、昨季は上海申花で衰えない決定力を見せて健在をアピールした。

 2月16日、そんなケーヒルが思わぬ形でメディアを騒がせた。彼の公式ソーシャルメディアが「上海申花を電撃退団」とのメッセージを発信。豪州国内のサッカーメディアも一斉にそれに追随したことで、サッカルーズの英雄に突然降って沸いた去就問題が、にわかに注目を浴びた。

 本人にとっても「晴天の霹靂」であったことは、ソーシャルメディアのポストの文面からも伺える。少し長くなるが、要約して書き起こしておく。

「今季のマンサーノ体制の構想外であることを伝えられ、クラブと契約破棄で同意したことを発表しなければならないのは、本当に心苦しい。去年11月に契約更新にサインしたばかりだし、ピッチの内外を問わず、クラブのために尽くしてきたと自負していただけに本当に悲しい。

 チームメイト、そしてクラブの素晴らしいサポーターにサヨナラを言わなければならないのは、胸が引き裂かれる思いだ。(中略)あと2日くらいして細部が決定すれば、みんなともっとシェアできることもあるだろう。僕の新しい挑戦はすぐに始まるさ(以下略)」

 昨季の滑り出しではなかなか結果が出ず、クラブの熱狂的なサポーターから非難の声を浴びることもあったケーヒルだが、ひとたびスイッチが入ると、中国スーパーリーグは決して彼にとって難しい舞台ではなかった。

 公式戦(カップ戦も含む)34試合に出場して12得点5アシストという立派な数字を残し、サッカルーズのエースとしての面目躍如の活躍を見せた。

 そんな彼に降りかかった“霹靂”が、事実上のクビでの電撃退団。新指揮官グレゴリオ・マンサーノの構想外となり、新たにナイジェリア代表のオバフェミ・マルティンスを獲得するための整理対象になったのは、プライドの高いケーヒルにはにわかに受け入れ難いものだったろう。

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